論文・記事一覧
The Lipid Vol.37 No.1 45-50, 2026より
特集 肥満症―病態と治療―
2.肥満症治療・わが国のエビデンス
越坂 理也 / 横手 幸太郎
肥満症は,2型糖尿病,脂質異常症,高血圧症,睡眠時無呼吸症候群,心血管疾患など生活習慣病の主要な危険因子である。日本人は,欧米人と比較してBMIが低くとも代謝異常を呈しやすいという「アジア人特有の内臓脂肪蓄積型肥満」が特徴である。2000年代初頭から「肥満症=体重過多+合併症リスク」という概念,すなわち「肥満症」の定義が打ち出され,多くの知見が蓄積されてきた。本稿では,最新の『肥満症診療ガイドライン2022』および関連研究のエビデンスを踏まえ,日本人における肥満症の特徴,肥満症の概念・定義,生活習慣介入,薬物療法,外科的治療のエビデンスを概説する。
The Lipid Vol.37 No.1 38-44, 2026より
特集 肥満症―病態と治療―
1.食事・運動・行動療法とチーム医療
齋木 厚人
肥満症は2型糖尿病のみならず多彩な健康障害を引き起こす疾患であり,治療の基本は減量による包括的な合併症改善である。日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインでは,初期目標は肥満症で現体重の3%以上,高度肥満症で5~10%以上の減量が推奨され,食事,運動,行動療法が基本となる。しかし高度肥満症では効果が不十分なことも多く,近年では外科治療や薬物療法が新たな選択肢として加わった。これらの治療は強力な減量効果を有する一方で,骨格筋減少や栄養障害のリスクも伴うため,食事療法などの従来治療を多職種で支えるチーム医療の重要性が,これまで以上に高まっている。
The Lipid Vol.37 No.1 30-37, 2026より
特集 肥満症―病態と治療―
3.肥満と併存疾患の病態生理
福田 士郎 / 藤島 裕也 / 西澤 均 / 下村 伊一郎
肥満症は単なる脂肪組織量の増加ではなく,脂肪組織の質的変容を基盤とする全身性疾患である。特に内臓脂肪の過剰蓄積は,慢性炎症を介してアディポサイトカインの分泌異常を引き起こし,肝臓,血管,腎臓など多臓器における代謝障害や組織障害の形成に関与する。近年,アディポネクチンとその結合分子T-カドヘリンを介した臓器保護機構や, T-カドヘリンの可溶型フォームに関する新たな知見が明らかとなり,肥満症における脂肪組織-臓器連関の理解が進展している。本稿では,内臓脂肪蓄積を起点とする病態形成の分子基盤を整理し,基礎研究の視点から肥満症と併存疾患の病態生理について概説する。
The Lipid Vol.37 No.1 21-29, 2026より
特集 肥満症―病態と治療―
2.褐色脂肪組織の熱産生非依存的生理機能と経世代的制御機構
米代 武司 / 酒井 寿郎
肥満症の蔓延と地球温暖化は現代社会が抱える社会問題である。褐色脂肪組織は,寒冷刺激に応じて熱産生を行うことでエネルギー代謝調節に寄与する組織で,肥満症治療のための刺激標的になりうる。褐色脂肪組織には,熱産生以外にも生理活性代謝物の産生と臓器連関による代謝制御機能をもつことがわかってきた。褐色脂肪組織の個人差や代謝運命は世代を超えた寒冷曝露情報の伝搬によって規定され,中年期以降の肥満リスクに関与する。褐色脂肪組織の真の機能と新たな制御機構の解明が進むことにより,個別化予測医療に基づく新たな肥満症治療法の開発につながることが期待できる。
The Lipid Vol.37 No.1 12-20, 2026より
特集 肥満症―病態と治療―
1.肥満症における摂食調節異常をめぐる最近の知見と動向
益崎 裕章 / 玉城 敦子 / 上間 次己 / 本間 健一郎
摂食行動・体重の恒常性は脳・腸内フローラを含む広義の消化管組織・脂肪組織の三極による緊密な機能連関によって維持されている。種々の消化管内分泌細胞から産生されるコレシストキニン,ペプチドYY,GIP,GLP-1,オキシントモジュリン,膵β細胞から分泌されるアミリンやインスリンは,各々に特徴的な作用モードで脳に作用して摂食抑制効果を発揮する。これらのホルモン作用を単独に,あるいは組み合わせて増強させることにより,既存薬に比べて格段に優れた効果を有する核心的な肥満症治療薬の開発が加速している。当初,脂肪組織と脳をつなぐ体脂肪量調節のセンターピースとして期待された脂肪細胞ホルモン,レプチンは肥満個体で生じるレプチン抵抗性のために肥満症治療薬としての開発は頓挫したが,肥満症病態の統合的理解において今も多くの示唆を与えている。
The Lipid Vol.37 No.1 10-11, 2026より
特集 肥満症―病態と治療―
特集にあたって
横手 幸太郎 / 小川 佳宏
近年の医学の進歩により,肥満症の病態の理解が大きく進歩を遂げてきました。食欲の中枢制御機構,脂肪組織の増殖・分化と機能異常,慢性炎症,異所性脂肪蓄積,臓器間ネットワークなどの知見が急速に集積し,肥満は単なる体重過多や生活習慣の破綻の結果ではなく,多臓器に機能障害をもたらす慢性疾患として理解されています。 肥満の病態理解の進歩を背景として,肥満症治療も大きな変化の時代を迎えています。従来,肥満症治療の基本は食事療法,運動療法,行動療法であり,現在もその重要性は変わりません。
The Lipid Vol.37 No.1 4-8, 2026より
見る脂質のページ〈さまざまなモダリティで見る脂質〉
第5回 外部位相差顕微鏡による脂肪滴形成過程の可視化
宮本 崇史 / 西野 哲平 / 島野 仁
脂質滴は,かつては中性脂質の受動的な貯蔵庫として理解されてきたが,近年では脂質代謝制御,細胞内シグナル伝達,オルガネラ間相互作用に関与する動的かつ機能的な細胞内小器官として再定義されつつある。この認識の変化を背景に,脂肪滴の形成・成長過程や細胞内動態を理解することは,細胞機能の恒常性維持のみならず,代謝疾患,神経変性疾患,がんなど多様な病態の分子基盤を解明するうえで重要な研究課題となっている 。
The Curator of Neurocognitive Disorders Vol.3 No.2 54-56, 2026より
Neurocognitive Disorders Trending Topics
認知症になっても安心して暮らし続けられる地域づくりに向けて―中山間・人口減少地域における地域包括ケアの構築例から学ぶ―
川越 雅弘
介護と医療の複合ニーズを有する85 歳以上の高齢者の急増に対応すべく,国は,これら高齢者が認知症や要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域包括ケアシステムの構築・深化を現在推進している。
The Curator of Neurocognitive Disorders Vol.3 No.2 48-53, 2026より
Skill Up Lecture
認知症における視空間認知障害と視線を利用した神経心理検査用プログラム医療機器(SaMD)
武田 朱公
認知症では視空間認知障害に伴うさまざまな症状がみられる。視空間認知機能の正確なアセスメントは認知症の早期診断や鑑別診断,さらには患者のケアや介護を考えるうえでも重要である。本稿では,視空間認知障害の定義や分類,認知症でみられる具体的な症状,視空間認知障害を評価するための検査法などについてまとめる。
The Curator of Neurocognitive Disorders Vol.3 No.2 45-47, 2026より
Latest Research ―論文紹介―
A minimally invasive dried blood spot biomarker test for the detection of Alzheimer's disease pathology
互 健二
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の血液バイオマーカー,とりわけ217 番目スレオニン残基リン酸化タウ(phosphorylated tau 217:p-tau217)は,脳アミロイドβ(amyloid β:Aβ)病理の検出において高い精度を示し,research criteria への採用や臨床実装への検証が進んでいる。しかし,静脈採血には医療従事者による穿刺,遠心分離,低温輸送といった厳格な前処理が必要であり,大規模疫学研究や地域医療への展開の制約となりうる。