「Summary」大腸癌研究会の全国登録(1974～99年)および日本病理学会の病理剖検輯報(2000～09年)からみたわが国の虫垂悪性腫瘍の記述統計データを概説した. 虫垂悪性腫瘍は大腸癌手術症例の0.2%, 剖検例の0.08%ときわめて低頻度な疾患であるが, 経年的には発生数が増加する傾向がみられた. 診断時年齢は男女ともに60～70歳代にピークがあり, 組織型は分化型腺癌>粘液癌>カルチノイド>印環細胞癌・低分化腺癌の順であり, 米国の報告とは組織型の分布に差がみられた. 虫垂癌の予後は結腸癌・直腸癌よりも不良であり, 組織型別の5年生存率は高い順にカルチノイド>粘液癌>分化型腺癌>印環細胞癌・低分化腺癌であった. 「はじめに」虫垂悪性腫瘍はまれな疾患であり, 本邦では少数例の症例報告はあるが多施設から系統的に収集された症例を集計した報告はない. 本稿では, 大腸癌研究会の大腸癌全国登録調査報告書(1974～99年登録例)1)に収載されているデータ(以下, JSCCR登録)と日本病理学会の病理剖検輯報から抽出されたデータ(以下, JAAD: Japan Autopsy Annual Database)から, わが国における虫垂悪性腫瘍の現状を概観し, 併せて米国からの報告と比較した.