2022年4月より不妊治療が保険適用されるなど,少子化対策の高まりとともに男性不妊症に対する診療を求めて泌尿器科を受診する患者が増加することが想定され,男性不妊症に対する診療指針を示すガイドラインの作成が急務と考えまして,このたび,辻村晃先生を作成委員長として,『男性不妊症診療ガイドライン』を初めて作成いたしました。
また本ガイドラインは,可能な限り最新のMinds診療ガイドライン作成マニュアルに基づき,より体系的かつ透明性が担保されたプロセスを以て作成いたしましたが,生殖医療専門医でなくとも男性不妊症に対する診療の標準的な考え方やその対応が容易にご理解いただけるよう,成書的な意味合いも含めて作成することといたしました。その結果,エビデンスの比較的多い内容について13のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定した以外に,知識,情報として共有しておくべき内容(総説)を7つのバックグラウンドクエスチョン(BQ),また現時点では標準的とまでは言い難いものの近い将来の課題と想定されるものを5つのフューチャークエスチョン(FQ)として解説いたしました。これにより男性不妊症の診療に関わる全ての医療者にとって極めて有用なガイドラインが完成したものと確信しております。
男性不妊症においてはプラセボを用いた多数例での無作為化比較試験がほとんどなく,レベルの高いエビデンスがほぼ存在しなかったことから,ガイドラインの作成を進めることが困難でした。しかし,男性に対する生殖医療は泌尿器科領域のサブスペシャリティの一つとして認識されているものの,日本生殖医学会が認定する生殖医療専門医を取得している泌尿器科医は非常に限られている現状を鑑みて,本ガイドラインの作成を進めました。従ってより多くの泌尿器科の先生方や生殖医療にかかわる先生方に,ぜひ本ガイドラインを活用していただき,男性不妊症の診療に役立てていただければと思います。
最後になりますが,ご多忙の中,本ガイドラインの作成にご尽力いただきました作成委員ならびに評価委員の先生方,そしてご協力いただいた全てのスタッフの皆様に厚く 御礼申し上げます。
(江藤 正俊「序」より)
Ⅰ 疫学・診断
BQ1 男性不妊症患者の頻度とその疾患内訳
BQ2 男性不妊症の診断における診察および検査の内容
CQ1 男性不妊症の診断に陰囊超音波検査 (カラードプラ超音波検査を含む)は推奨されるか?
CQ2 男性不妊症の診断に内分泌学的検査は推奨されるか?
CQ3 遺伝学的検査(染色体検査・Y 染色体微小欠失検査)はどのような場合に推奨されるか?
FQ1 男性不妊症の検査において精液中の酸化ストレス(OS)測定をどのように考えるか?
FQ2 男性不妊症診療において精子DNA 断片化指数(DFI)の測定検査をどのように考えるか?
FQ3 男性不妊症の診療において生活習慣病など(高血圧,脂質異常症,糖尿病など)の評価をどのように考えるか?
Ⅱ 内科的治療
BQ3 内科的治療総論
CQ4 男性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(MHH)の患者においてゴナドトロピン療法は推奨されるか?
CQ5 テストステロン低値の男性不妊症患者に,クロミフェンクエン酸塩投与は推奨されるか?
CQ6 特発性の男性不妊症患者において抗酸化剤投与は推奨されるか?
FQ4 男性不妊症に対するアロマターゼ阻害薬の使用をどのように考えるか?
Ⅲ 外科的治療
BQ4 外科的治療総論
CQ7 精索静脈瘤に対する手術は推奨されるか?
CQ8 閉塞性無精子症(OA)に対する精路再建術は推奨されるか?
CQ9 非閉塞性無精子症(NOA)に対する顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)は推奨されるか?
FQ5 精索静脈瘤手術における精巣動脈の同定にインドシアニングリーン(ICG)をどのように考えるか?
Ⅳ その他
BQ5 がん治療(抗がん剤,放射線療法)による造精機能障害
BQ6 里親制度と養子縁組制度
BQ7 性機能障害に対する治療
CQ10 生殖機能が損なわれる可能性のある治療(主としてがん治療)を行う予定の若年男性患者において,治療前の精子保存に関する説明は推奨されるか?
CQ11 射出精液より十分な精子が得られない患者において,生殖機能温存治療のための精巣内精子採取術(TESE)は推奨されるか?
CQ12 PDE5阻害薬は勃起障害(ED)による男性不妊症に推奨されるか?
CQ13 三環系抗うつ薬は逆行性射精を有する男性不妊症に推奨されるか?