従来からの糖尿病治療の目標は、血糖、血圧、脂質代謝の良好なコントロール状態と個人個人にとっての適正体重の維持により、糖尿病の合併症の発症・進展を阻止し、糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質(Quality of Life)の実現を目指すことです。糖尿病診療とは、患者さんの人生に伴走することであり、出生前から高齢までのライフステージに応じて、患者さんとそれぞれの置かれたコミュニティに配慮した医療の提供が重要です。超高齢社会を迎えたわが国では、増加する認知症、サルコペニアやフレイルなどの併存症、さらには悪性新生物などの疾病といかに対峙するかも喫緊の問題となっています。糖尿病とこれらすべての併存症との直接的な病態的な関連が確証されているわけではありませんが、実際の診療の現場では、これらの併存症の予防・管理は避けて通れません。
近年、糖尿病診療は目覚ましい進歩を遂げ、食事療法、運動療法のあり方もそれぞれの指針のなかで変遷を続け、また、新しい治療薬やインスリンポンプ、血糖測定のための新しいデバイスなどが次々と登場してきました。日本糖尿病学会による第4次「対糖尿病戦略5ヵ年計画」では、こうした医療資源を基盤として、個々の患者さんを中心とする、その取り巻く環境・社会背景に応じた「1,000万とおりの個別化医療」が提唱されています。この実現のためには多くの視点による多職種が連携したネットワーク、チーム医療が欠かせず、ここに糖尿病療養指導の意義があります。
日本糖尿病療養指導士認定機構は、2025年2月に設立25周年を迎えました。2000年に設立された本機構は、2001年より日本糖尿病療養指導士(Certified Diabetes Educator of Japan:CDEJ)の認定を開始し、現在までに約4万人のCDEJが認定され、現場で活躍してきました。
本ガイドブックは、CDEJの学習目標と課題を網羅したものであり、膨大かつ日進月歩の糖尿病診療に関する情報をできる限り簡潔にまとめ、CDEJに必要な基礎知識から実践的指導までを記載することを目指しています。糖尿病に関連するガイドラインや指針をアップデートし、治療薬や治療機器の最新の情報を取り入れています。これからCDEJを目指す方にも、またすでにCDEJを取得している方にも、本書が知識の修得と整理、そして実践に役立つことを期待しています。
最後に、本書の改訂にあたり、執筆・協力をいただいたすべての方々に心より感謝いたします。
(河合俊英「序」より)
Ⅰ章 糖尿病療養指導士の役割・機能
1.日本糖尿病療養指導士制度
2.糖尿病療養指導の基本
3.関連団体
Ⅱ章 糖尿病の概念、診断、成因、検査
1.血糖調節の概略
2.疾患概念
3.診 断
4.成因と分類
5.検 査
Ⅲ章 糖尿病の現状と課題
1.糖尿病の疫学指標
2.糖尿病の一次予防
3.糖尿病を減らすための社会的取り組み
Ⅳ章 糖尿病の治療(総論)
1.治療目標とコントロール目標
2.治療方針の立て方
Ⅴ章 糖尿病の基本治療と療養指導
1.食事療法
2.運動療法
3.薬物療法(経口血糖降下薬)
4.薬物療法(注射血糖降下薬)
5.インスリンポンプ療法
Ⅵ章 糖尿病患者の心理と行動
1.糖尿病患者の心理
2.糖尿病患者のセルフケア行動
3.心理・行動に配慮した支援
Ⅶ章 療養指導の基本(患者教育)
1.療養指導の考え方
2.療養指導の実際
3.評価・修正
Ⅷ章 ライフステージ別の療養指導
1.乳幼児期
2.学童期
3.思春期
4.妊娠・出産
5.就労期
6.高齢期
Ⅸ章 合併症・併存疾患の治療・療養指導
1.急性合併症
2.糖尿病性細小血管症
3.大血管症(動脈硬化症)
4.メタボリックシンドローム
5.その他
Ⅹ章 特殊な状況・病態時の療養指導
1.シックデイ
2.周術期
3.低栄養
4.旅 行
5.災害時
6.医療安全上の留意点