医療技術の進歩にともなう画像診断の向上・普及は著しい。超音波断層装置もその例外ではない。その結果として,病変の検出能は著しく向上し,一般臨床で用いられる汎用機種と適切な探触子を組み合わせることで表在臓器の診断に充分な空間解像度を得ることが可能となった。このことが頸動脈超音波検査(頸動脈エコー)の広範な普及につながった。
頸動脈エコーでは,血管形態や走行深度から,一般に高周波のリニア型探触子を用いる。探触子の帯域巾は,内膜中膜複合体(intima-media complex;IMC)の計測精度を考慮すると7MHz以上を十分にカバーしていることが必要となる。したがって,必然的に隣接する甲状腺の病変についてもその描出率は高い。
平成26年における東京都のPET検診は13施設79コースであり,全国では65施設337コースに上った。また,MDCTが普及したことにより病変検索のため広範囲のスクリーニング検査の頻度が高くなり,MRIについても同様の傾向がみられ,いずれの場合も甲状腺病変の指摘につながるケースが増加している。
このように偶発的に発見される甲状腺病変の取り扱いは,その有所見率がきわめて高いため医療資源の有効利用の面からも充分な検討が必要である。明らかに良性で一次検査の段階で経過観察としてよい症例が数多く存在するが,現状ではその大部分が精査目的で甲状腺専門施設に紹介されている。また,剖検時に発見されるラテント癌は本邦では11.3~28.4%と報告されている。一方,臨床的な甲状腺癌の有病率は10万人あたり約5人であり,剖検による癌の頻度と著しい乖離が存在する。したがって,本来検出する臨床的意義のあまりないラテント癌が精査のため二次検査の対象となる可能性もきわめて高くなっていることが推測される。
本書は,頸動脈エコー施行時に認められる甲状腺病変の精査基準を明確にし,日常臨床の指針としてベッドサイドで活用していただくことを目的とした。執筆陣は甲状腺超音波診断のエキスパートであり,この本を有効に利用することで被検者の負担を軽減しつつ,精査対象の見落としのない質の高い医療が実現することを期待したい。
(貴田岡正史「序文」より)
1.甲状腺超音波検査の基礎知識
1 甲状腺超音波検査に用いられる超音波機器/佐々木栄司
2 甲状腺超音波検査の操作法・手順/佐々木栄司
3 正常甲状腺の形状/鈴木眞一
2.頸動脈エコー時に見られる甲状腺の形状と病態
1 びまん性病変/滝 克己
2 結節性病変〈良性〉/村上 司
結節性病変〈悪性〉/小林 薫
3 副甲状腺病変/小野田教高 ほか
3.頸動脈エコー時に見られる甲状腺疾患の精査基準
1 頸動脈エコーおよび検診における取扱い/志村浩己
2 一般臨床における甲状腺結節の精査基準/鈴木眞一