皮膚癌のなかで最も頻度の高いものが基底細胞癌と有棘細胞癌であり,欧米では非黒色腫皮膚癌(non-melanoma skin cancers;NMSC)として一括されている。日本においても,社会の高齢化を反映して近年NMSCが急増している。日光角化症とBowen病は有棘細胞癌の早期段階の病変とみなされるものであり,やはり近年,患者数の増加が目立つ。また,悪性黒色腫(メラノーマ)は診断が難しいうえに高い転移能を有し,治療抵抗性であるので,診療上,細心の注意を要する皮膚癌である。さらにまた,やはり高齢者の外陰部に好発する特異な腺癌である乳房外Paget病も稀ならずみられる。日常診療において,これら各種の皮膚癌に適切に対処することが切望される。
なかでも日光角化症はわが国において近年,患者数が特に急増している。本症はフィールド癌化という興味深い病態を示す疾患であり,ヒトにおけるin vivo の発癌過程を考察するうえでも重要な研究対象である。この日光角化症の治療に,強力な免疫誘導・調節作用を有するイミキモドクリームが日本でも使用できるようになった。本剤による日光角化症の治療が画期的なのは,フィールド治療と位置づけられる点にある。すなわち,日光角化症の微小病変や潜伏病変も含めて,本剤塗布部位全域に及ぶ網羅的な治療効果が期待できるのである。本書では,この日光角化症について多くのページを割き,その病態,臨床診断と鑑別のコツ,ダーモスコピーの有用性,治療選択肢と具体的な治療法を詳細に解説した。日光角化症のすべてを記載してあるので,日常診療において頻繁にみられるようになった本症について認識を深めていただけるものと思う。
本書では日光角化症以外にも,悪性黒色腫をはじめとする代表的皮膚癌を取り上げ,多数の画像を提示しながら診断・鑑別・検査・治療・予後などをわかりやすく解説した。皮膚癌病変は容易に視認できるものであるから,正確な知識を身につけていれば日常診療の現場で早期に検出することが可能なはずである。皮膚疾患を診る機会の多い第一線の先生方が本書を手元に置き参照していただければ,これら皮膚癌の正確な診断と適切な治療に大いに資するものと期待している。
本書刊行にあたっては,それぞれの癌種を専門とする先生方に原稿執筆をお願いした。ご多忙のなかを,短期間の締切りであったにもかかわらずいずれもわかりやすく,内容の濃い原稿を書き上げていただいた。編者として心より謝意を表する。本書が日常診療における皮膚癌の適切な診療の手助けとなり,診療レベルの向上に役立つことを願っている。
(斎田俊明「序文」)
皮膚癌概説/斎田俊明
・皮膚癌の種類と分類
・皮膚癌の疫学的特徴と人種差
・日本人の皮膚癌の疫学
・皮膚癌研究の新たな動向
1.日光角化症/斎田俊明
・疾患概念と発生病理
・疫学と臨床所見
・有棘細胞癌(SCC)への進展リスク
・ダーモスコピー所見
・病理組織像
・検査法
・臨床的鑑別診断とそのポイント
・治療法とその適応
2.Bowen病/師井洋一
・臨床所見(年齢,好発部位,病因)
・臨床症状
・特殊型
・ダーモスコピー所見
・病理組織像
・治療
3.有棘細胞癌/宇原 久
・臨床所見
・ダーモスコピー所見
・病理組織像
・鑑別診断
・その他の検査
・病期
・治療と予後
・薬物療法
4.基底細胞癌/竹之内辰也
・臨床所見
・ダーモスコピー所見
・病理診断のポイント
・その他の検査
・治療
・予後
5.乳房外Paget病/八田尚人
・起源
・臨床所見
・病理組織像
・TNM分類
・他臓器癌の合併
・パンツ型紅斑
・治療
6.悪性黒色腫/斎田俊明
・臨床所見
・ダーモスコピー所見
・病理組織像
・その他の検査
・治療と予後
【鑑別所見一覧】/古賀弘志/斎田俊明
・日光角化症
・Bowen病
・有棘細胞癌
・基底細胞癌
・乳房外Paget病
・悪性黒色腫(悪性黒子型)
・鑑別所見一覧表