リング型のIlizarov創外固定器の出現により,創外固定の概念は大きく変化したと考えられます。イリザロフ先生の提唱した“distraction histogenesis”は,組織を徐々に延長して再生するという考え方で,これにより,脚延長術,変形矯正術,骨移動術などに革命的な進歩をもたらしました。もちろん,骨折に対しても,“percutaneous osteosynthesis”と称して,受傷した軟部組織や骨に対して極めて低侵襲な骨接合術を可能としました。この多機能なイリザロフ創外固定器をさらに発展進化させたものが,Taylor Spatial Frame(TSF)と言えるかもしれません。2つのリングを6本の伸縮式のロッドで連結し,骨と創外固定器の位置関係をパラメーターとして入力し,ソフトウェアに求める骨形態の最終型をデータ入力します。すると,プログラムに従ってロッドの長さを変化させることにより,ほぼ完璧な整復や矯正を行うことができます。TSFは非常に“surgeon friendly”なデバイスといえるでしょう。
「新しい創外固定-Taylor Spatial Frame実用マニュアル」(松下隆・土屋弘行編集,メディカルレビュー社)が2006年4月1日に発刊されてから,かれこれ6年が経過しました。イリザロフ創外固定器からTSFを多用するようになった方たちも多いかと思います。TSFは,骨幹部であれば,骨折,偽関節,変形,骨欠損などほとんどの病態に対応ができ,誰でもが良好なアライメントや骨癒合,骨再生を得ることが可能となった大変有用なデバイスです。最近では,新たに足部用のソフトウェアも作成され応用範囲が広がりました。
今回,ソフトウェアの更新に伴い,新たなマニュアルとして本書を作成しました。これまでに多くの経験が蓄積され,経験豊富な先生方に執筆をして頂きましたので,かなり中身の濃い内容になっています。とはいいましても,基礎から応用編まで.十分に実践に役立つと思います。
日本で最初の1例は,2000年9月20日に金沢大学整形外科でのTSF手術でした。まだマニュアルのない時代で,変形矯正もゴールに辿り着くまで,長い道のりを要しました。矯正方向が逆になったり,延長する所が短縮したりと,今となれば良い思い出ですが,本書のある現在では,まずこのようなことは考えられないでしょう。
読者諸氏におかれましては,このマニュアルをもとに,TSFの醍醐味を大いに味わっていただければ幸いです。骨折はもとより,これまで治すことが困難であった高度の変形,開放骨折,骨欠損,偽関節,骨髄炎などの治療が可能となり,必ずやその虜になることは間違いありません。個人的には,TSFをはじめとする創外固定が,今後さらにどのように進化していくのか非常に楽しみにしています。
(土屋弘行「序文」)
第1章 Taylor Spatial FrameのコンポーネントとSpatial Rules/中瀬尚長
第2章 ピン/ワイヤー刺入の基本手技/中瀬尚長
第3章 TSFを使いこなすためのソフトウェア(Webの取り扱い方)/中瀬尚長
第4章 変形矯正
1.X線の撮影方法と変形の評価/渡邊孝治/土屋弘行
2.下腿変形矯正(症例)/渡邊孝治/土屋弘行
3.大腿変形矯正(症例)/渡邊孝治/土屋弘行
4.上肢変形矯正/前川尚宜
第5章 足部・足関節の変形矯正
1.変形の評価/石井朝夫
2.Webソフトウェアのプログラミング/石井朝夫
3.足部・足関節部変形に対する使用経験/前川尚宜/田中康仁
第6章 新鮮骨折に対する使用/松原秀憲/土屋弘行
第7章 骨延長/松原秀憲/土屋弘行
第8章 Bone Transport(骨移動術)/松原秀憲/土屋弘行
第9章 術後管理・後療法/山口紀子/児玉真理子/中瀬尚長