2011.01.10 発売
脳を固める・切る・染める
先人の智恵
著者萬年 甫
臨床医学_外科系 > 脳神経外科学
| 定価 | 6,600円(本体6,000円+税) |
|---|---|
| 発行形態 | A4判 / 290ページ |
| ISBN | 978-4-7792-0408-1 |
おすすめポイント
2011年1月 標本作成の手順や染色法は何時,誰によって,どのようにして考えだされたか・・長年脳組織学の研究に従事してきた筆者による脳組織学の歴史書。
内容紹介
筆者は戦中の昭和18年(1943)東大医学部在学時代からほぼ半世紀にわたって,東大医学部附属脳研究施設および東京医科歯科大学医学部解剖学教室において脳組織学の研究に従事し,人間を含むいろいろな動物の脳の標本を作っては観察してきた。色素や鍍銀法で見事に染まった脳組織,ことに神経細胞や神経線維の像は,顕微鏡で覗くたびに息を呑むほどに美しく,神秘感に満ち,このようなもので人間は知的活動を行い思想を生み出すのかと,見るものをして知らず知らずのうちにものを思わしめる魅力に溢れている。と同時に,このような迫力に富む像の出現はどのような操作によって可能となったのか。おそらくこれは,一度でも標本を見た人なら,誰でもが抱く疑問であろう。
平成元年(1989)の定年退官から3年目の秋,メディカルレビュー社発行の学術季刊誌“BRAIN MEDICAL”の編集委員会から,脳組織学の歴史を連載で書くようにとのご依頼があった。連載となると期日は限られ,さぞ気忙しい仕事になると思い悩み,それに国の内外ですでにいろいろな優れた類書が刊行されていることも思い合わせて,最初は躊躇した。しかし,思案の末,この与えられた機会に,長年慣れ親しんできた標本作成の手順や染色法についての自らの経験を通じて,それらが何時,誰によって,どのようにして考え出されたかを顧みるのもあながち無駄ではあるまいと思い直し,表題もせめて気楽に読めるようにと,一応一人合点で『脳沿い器楽染色技術史夜話』とでも題して,10回くらいでまとめてみようと決心してお引き受けすることにした。しかし,この表題ではちょっと硬すぎるかなと頭をひねっていたところへ,編集主任の東京女子医科大学神経内科の岩田誠教授(現名誉教授)からあらためて連載の表題を決めて欲しいというご要望があった際に,反射的に筆者の頭に閃いたのが『脳を固める・切る・染める―先人の智恵』であった。
いざ書き出してみると,それぞれの項目の源流までさかのぼる気持ちが強まり,手元の資料では物足らなくなり,古書や古文献の探索に追われる身となり,ニューロンの最初の発見から,ニューロンと神経グリアの形態の概略が判明するまでの19世紀から20世紀の前半を扱うだけで,41回の連載に10年の歳月を費やすことになってしまった。
古書や原著の探索については,19世紀以後のものはともかく,それ以前のものはわが国に所在しないものも数多く,わが国における科学史研究資料の乏しさを,今さらながらに痛感せざるを得なかった。しかし,本書が対象とする19世紀から20世紀前半にわたって行われた,神経細胞や神経グリアの光顕的探索期の文献は,大方国内に揃っていることがわかり,あらためて先輩たちの努力に深甚な感謝の念を捧げることになった。それはそれとして,本書は自ら直接体験したことを中心に記述したために,20世紀後半になって導入された電子顕微鏡の機器や標本作成技法を自ら体験したことはほとんどなく,その意味で脳の組織学の歴史的な総合的視野に欠けるおそれなしとせず,結果は読者の多くが期待されるような中庸を得た通史などとはおよそ縁遠い,あくまでも一人よがりの『夜話』に過ぎないことをあらかじめお断りしておきたい。
本書では,わが国ではあまり話題にされることのないラテン語系の研究者たち,たとえば,コルティ,ゴルジ,マルキ,ランヴィエ,ラモニ・カハール,アチュカロ,リオ‐アルテガなどの多くの優れた業績を,原典からの邦訳と多数の付図によって著者自らに解説してもらうように努めるとともに,ささやかではあったが,技術面におけるわが国の研究者たちのとかく埋もれがちな貢献に,あらためて感謝の念を込めて光を当てたつもりである。
連載を終わってほっとする間もなく,一書にまとめる話が持ち上がり,その気になって読み返してみると,もっと簡潔に書き直したいという気持ちが募るばかりであるが,諸般の事情でそれは断念せざるを得ず,ごく一部の訂正加筆に留まらざるを得なかった。いずれにせよ,ささやかな本書が,何時の日か広大な未知の砂漠の中に道を探る旅人にとっての小さな道しるべの一つにでもなれば,筆者としては望外の幸せである。
目次
第1章 脳を固める―固定と包埋
まえがき
1. 固定液
・初期の固定液―アルコール,クロム酸,昇汞(塩化第二水銀)
・重クロム酸カリ―ハインリッヒ・ミュラー
・四酸化オスミウム(オスミウム酸)―マックス・シュルツェ
・ホルマリン―フェルディナンド・ブルム
2. 包埋剤・ミクロトーム
・はじめに
・パラフィン―テオドール・アルブレヒト・エドウィン・クレープス
・セオイジン―マティアス・デュヴァル
・組織の凍結―ベネディクト・シュティリング
第2章 脳を切る―ミクロトームによる薄切
まえがき
1. 初期のミクロトーム
シャルル・シュヴァリエからウィルヘルム・ヒスまで
2. その後の改良
ルイ・アントワーヌ・ランヴィエ,G.リヴェ,チャールズ・セジュウィック・マイノット
3. 連続切片の作成
ウラジミール・アレクサンドロヴィッチ・ベッツ,ベルンハルト・アロイス・フォン・グッデンおよびオーギュスト・アンリ・フォレル
第3章 脳を染める―染料による染色と鍍銀法
まえがき
1. 染料による染色
・動物性染料―カルミン
・植物性染料―ヘマトキシリン
・合成染料―エールリッヒのメチレンブラウ生体染色,ニッスル染色など
・変性髄鞘の特異的染色―“前マルキ期”と“後マルキ期”
2. 鍍銀法
・前鍍銀法
・後鍍銀法
3. ガラス管微小電極による色素,酵素などのニューロン内注入法
形態と機能の同時解析の可能性を探る
4. 神経グリアの特異的染色
・タンニン銀法―ニコラ・アチュカロ
・金昇汞法―ラモニ・カハール
・炭酸銀法―ピオ・デル・リオ‐オルテガ
・わが国における神経グリア染色への貢献―辻山義光
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