「医療DXの先には、医療の抜本的な変化が待ち受けている」と著者の加藤浩晃先生は言います。
それは医療における「治療モデル」の限界と「健康設計モデル」への変化です。
従来、医療は病気を治すことを中心に構築されてきましたが、著者が唱える「医療4.0」(医療のDX化)による医療の多角化・個別化・主体化が浸透することにより、医療の主役は予防へと移り、医師は「病気の治療者」から「健康の設計者」へと役割が変わっていきます。
予防の概念も「病気を防ぐ」のではなく、「病気を成立させない」という「0次予防」を主眼として組み立てられるようになります。
医療業界は、現在の姿ではもはや生き残れません。医療機関、製薬企業、医療機器産業、医療流通、生命保険会社など、医療業界の主要メンバーは、ビジネスモデルの大変革を強いられます。さらに、医師のキャリアプランや国の医療行政も大きく変わっていきます。
本書は、このような「0次予防」を出発点とした医療とそれに伴う社会の変化を、大胆に予想しています。本書の内容は、人口減少による衰退が予想される日本に対する「生き残り戦略」でもあります。
2100年に向けて、さらなるグローバル化、DX化の荒波を乗り越えるためにも、医療業界のすべてのステークホルダー(利害関係者)に読んで頂きたい1冊です。
はじめに
第1章 医療の前提はなぜ「治療」から「設計」へ変わるのか
・治療モデルはなぜ成功し、なぜ限界を迎えつつあるのか
治療中心モデルの誕生
環境が変わると、最適なモデルも変わる
・多角化──医療は「病院の中」から「社会インフラ」へ
境界線が消えていく
医療産業の構造が変わる
病院中心モデルの揺らぎ
医療が「社会設計機能」に変わっていく
・個別化──「平均」から「個体」へ
標準治療の成功とその限界
ゲノム医療の衝撃
治療最適化から「生活設計」へ
・主体化──「患者」から「設計者」へ
パターナリズムの終焉
情報アクセスの民主化
主体化は「患者教育」とは違う
「自己設計する個人」の出現
医療者の役割が変わる
・3つの変化が収束する先──「0次予防」
多角化・個別化・主体化が同じ方向を向いている
なぜ「設計」へと収束するのか
収束点を「0次予防」と名づける
第2章 0次予防とは何か──設計医療の定義
・1次・2次・3次予防の限界
予防医療の3段階
3つの予防に共通する構造的限界
すべては「リスク前提型」である
・0次予防とは何か──構造設計という医療
火事を例に考える
構造と設計
3つのレベルで設計する
糖尿病を例に見る
・技術的基盤──ゲノム×ライフログ×デジタルツイン
ゲノム──生物学的設計図
ライフログ──日常の記録
デジタルツイン──仮想的自己
3つが統合された時
・「病気を防ぐ」から「病気を成立させない」へ
「防ぐ」という発想の限界
「成立させない」という発想
閾値モデルから連続モデルへ
レジリエンスを設計する
マイナスをゼロにするのではなく、プラスを創造する
第3章 医療機関はどう変わるか
・病院──治療拠点から健康設計拠点へ
スマート病院の限界
設計拠点としての病院
病院経営と機能分化
・クリニック──身近な健康設計パートナーへ
クリニックが抱える構造的課題
健康設計拠点への進化
地域の健康設計パートナーとして
短期実装としての受診の3層化
第1層:AIによる一次評価
第2層:オンライン診療
第3層:対面診療
・在宅医療──「補完」から「中心」への再定義
従来の在宅医療の位置づけ
在宅を「中心」に据える
在宅設計拠点と地域統合
・常時モニタリング社会と倫理
イベント型から常時管理型へ
プライバシーと監視社会のリスク
倫理的フレームワークの必要性
第4章 製薬企業の再設計 ─治療薬から予防・健康へ─
・バイオ医薬品の限界
低分子からバイオへの転換
バイオ医薬品の経済的矛盾
治療薬モデルの行き詰まり
・予防・先制市場の爆発
病市場の台頭
GLP-1受容体作動薬による現象が示すもの
予防・先制医療の市場規模
・製薬企業の参入と先制医療
先制医療──製薬企業の次なるフロンティア
・サプリ・医薬の境界崩壊
現在の規制構造
境界崩壊の4つの地殻変動
規制の再設計が避けられない
市場再編の衝撃
・遺伝子×生活習慣×投与設計
「なぜ効かないのか?」の謎が解ける
生活習慣データが投与設計を変える
AIによるリアルタイム最適化
・健康設計企業への転換
「薬を売る企業」の終焉
健康設計企業とは何か
既に動き始めている巨大な転換
転換を阻む4つの壁
2100年に「製薬会社」は存在しているか
第5章 医療機器産業の進化 ─検査から常時モニタリングへ─
・従来の検査モデルから常時センサーへ
従来の検査モデル──「点」としての医療
POC検査の登場──縛りの一部が解ける
CGMが開いた扉──検査が「線」になる
連続データが変える医療の本質
医療機器メーカーへの構造転換圧力
・医療機器のサブスク化
「レイザー&ブレード」の終わり
MDaaSという新しいパラダイム
MDaaSは既に始まっている
・データプラットフォーム支配
ハードウェアの価値が急速に失われている
プラットフォームという新しい戦場
勝者の条件
・検査機器から健康設計のインフラへ
従来の医療機器──「病気の患者」のための装置
健康設計インフラへの進化
具体的に、何が起きているのか
健康設計機器に求められる能力
2100年、「医療機器」は姿を消しているかもしれない
第6章 医療流通の再定義 ─物流から健康を支える仕組みへ─
・医療価値の具現化企業へ
医薬品卸の現状──過小評価された巨人
業界が直面する課題──すべての問題は1つに収束する
M&Aの本当の意味──「規模」ではなく「変革」のための起点
「医療価値の具現化企業」への再定義
医薬品卸だけが立てる「見えない展望台」
・データハブ化
医療DXの推進役──「分かっているが進まない」を動かす
AIとIoTの活用──「見えなかったもの」を見えるようにする
データビジネス──「知られざる高収益事業」の誕生
・地域健康インフラ化
医療インフラとしての卸──無自覚な巨人
地域包括ケアへの貢献──「結果的につないでいる」から「戦略的につなぐ」へ
過疎地・高齢化地域への対応──「最後の防波堤」の経済性
地域健康インフラの将来像
・医療安全保障と設計医療
設計医療における卸の役割
持続可能な医療体制への貢献
2100年、「医薬品卸」という名称は残っているか
第7章 医師はどう変わるのか ─治療者から設計者へ─
・治療者モデルの終焉
設計医療における医師の役割
・医師の三層構造
第1層:臨床専門医
第2層:健康設計医
第3層:医療インフラ設計医
3層の関係──ピラミッドではなく、生態系
・AI時代の医師の価値
生成AI×医療の現状
診断精度で勝つことの限界
統合判断と倫理的決断の価値
設計思考と構造提案の価値
AI時代の医師の本質
・医師のキャリアは病院に閉じない
従来の医師キャリア
1人の医師のキャリア変遷──実例として
臨床専門医として
医学教育の専門家として
医療インフラ設計医への展開
健康設計医への拡張
個人から組織・社会へ
拡張される活動領域
インフラ設計者としての医師
キャリアの流動性
多様なロールモデル
・医師教育の再設計
現在の医学教育の構造
現在の教育の限界
医師自身の学び直し──1つの実例として
医学教育の再設計の方向性
カリキュラムの具体的変革
生涯教育の重要性
教育改革の課題と展望
2100年、医師とは何者か
第8章 産業界はどう変わるのか ─健康が経営戦略になる時代─
・健康経営──従業員の健康は人的資本投資
健康は「コスト」から「投資」へ
人的資本開示と健康
プレゼンティーイズム──見えない巨大コスト
・保険セクター──最も強力な推進役
保険会社──リスクへの対処から、健康への支援へ
保険会社が持つ3つの強み
健康保険組合──2,800万人のデータを抱える巨人
保険と医療の境界が溶ける
公的医療保険制度への含意──国民皆保険の再設計
診療報酬制度の再設計
保険者機能の強化
2040年、そしてその先へ
・ 異業種参入──医療産業の境界が溶ける
通信・IT──データインフラを握る者が健康を設計する
小売・流通──コンビニは医療機関を超える健康インフラになる
不動産・都市開発──住む場所が健康を決める
食品産業──毎日の食が最大の医療になる
「医療産業」という概念の終わり
・ヘルスケアスタートアップ──イノベーションの源泉
なぜ既存企業では足りないのか
資本市場という見過ごされたインフラ
IPO市場という残された難所
スタートアップが担うべき5つの領域
・ビジネスパーソンの健康──1人から始まる設計
経営者こそ「健康の設計者」であるべき
40歳という転換点
実例:データに基づく設計が経営判断を変える
1人から始まる波及
2100年、「健康産業」は「産業」そのものになる
第9章 健康国家戦略 ─医療4.0から健康国家へ─
・なぜ国家戦略が必要なのか
縦割り行政の限界
基本法という設計思想
「強い国家」ではなく「賢い国家」として
・医療需要の構造的逆算──2040年の数字が語るもの
社会保障費 =(人口×発症率×重症度×単価)──変数のどこに介入するか
因果連鎖──介入から効果へ
3層会計──効果を「分けて見る」ための枠組み
第1層:財政インパクト(公的医療保険・介護保険の給付費)
第2層:経済インパクト(労働生産性とGDP)
第3層:統合インパクト(社会全体の桁感)
構造転換の積み上げ──結果として見えてくるレンジ
3層レンジ──時間軸での実現可能性
統計モデルの限界とエージェントベースシミュレーション
「面的シミュレーション」の重要性
移行コストは、誰が払うのか
優先順位──最初に着手すべき3つの政策
実装の鍵──インセンティブ設計
本書の提案と既存政策との関係
これは「設計」であると同時に「政治」である
・「健康国家」という国家ビジョン
「支援モデル」から「設計モデル」へ
社会保障の目的の再定義
KPIの転換──「いくら使ったか」から「どれだけ健康になったか」へ
Goodhartの法則──「指標が目標になった瞬間、それは良い指標ではなくなる」
四層の複合指標
・0次予防の制度化
食環境・都市・労働環境の設計
現役世代の健康を国家安全保障として位置づける
診療報酬制度の抜本改革
見えない構造的負担──控除対象外消費税問題の解決
医療・健康産業の成長戦略化
・健康国家を支える二つの基盤──データと規範
データ基盤の整備
「Data-Centered医療」という構想──医療DXビジョン2040
データヘルス改革の発展として
規範の問い──「どこまで医療をやる国家か」
・もし法律にするなら──健康国家戦略基本法の構想
既存の「健康・医療戦略推進本部」との関係──発展的改編のすすめ
第一段階──健康国家戦略基本法の制定
第二段階──本部の射程拡張:健康・医療戦略推進本部から健康国家戦略推進本部へ
司令塔の「実権」──調整機関で終わらせないために
第三段階──事務局の強化:健康国家戦略推進事務局の設置
既存の仕組みを継承する──AMEDと関連協議会の位置づけ
現場との合意形成──健康国家戦略推進協議会の設置
なぜこの実装アプローチが現実的なのか
医療界との協調──対立ではなく共創
この改革に反対する合理的理由
「共創の設計」──誰が得をするかを明確にする
・2040年というマイルストーン
この戦略が失敗する条件
未完成の設計図として
設計は、今始まる
第10章 2100年の医療を設計する ─次の世代に手渡す設計図─
・指数関数的に加速する医療──線形予測の罠を超えて
「2040年は通過点にすぎない」という認識
2045年──「人とAIの融合」が日常になる
2060年──「健康」が個人の努力から社会のインフラへ
2080年──生物学的老化への介入が標準化する
2100年──ポスト医療社会、そして人間の再定義
・日本から世界へ──課題先進国からソリューション先進国へ
日本の強みの再定義
・次の世代への手紙──なぜ、2100年なのか
完成を見ないことを前提として設計する
そして、本書もまたいずれ古びる
本書は、子ども世代への手紙です
おわりに