【本書P36~P37】
人間ドックの医療費削減効果については、少し古いデータになるが、福井敏樹医師(オリーブ高松メディカルクリニック院長)が実施した興味深い研究がある。
福井医師は40代と50代の人間ドック受診者1800人(40代・308人、50代・1492人)と定期健康診断受診者1165人(40代・322人、50代・843人)を対象に、3年連続で受診した後の年間医療費について、5年間にわたって追跡調査をした。
それによると、1人あたりの受診後5年間の累積医療費は40代男性の場合、人間ドック受診者は48万6000円、定期健康診断受診者は62万9000円と、その差は14万3000円。50代男性では前者が83万円、後者が116万円と、33万円の医療費削減効果が認められた。
本書では、「お金」というこれまでの著書とは違った角度から、予防医療の大切さを語ってみたい。
お金は、誰にとっても関心の高いテーマだ。「予防医療はお金の面で得する」ことを証明できれば、大多数の「腰の重い人たち」も、予防医療に対して目を向けてくれるに違いないという仮定のもとに、本書の企画を立案した。
(中略)
僕自身がとても興味をそそられる内容になったと自負している。多くの読者も初めて読む話ばかりだと思うので、楽しみにしてほしい。
(「はじめに」より)
著者
■プロフィール
堀江貴文(ほりえたかふみ) 
堀江貴文(ほりえたかふみ)
1972年、福岡県生まれ。実業家。SNS media & consulting株式会社ファウンダー。元株式会社ライブドア代表取締役CEO。現在は、ロケットエンジン開発を中心に、スマホアプリ「TERIYAKI」「755」のプロデュースを手掛けるなど、様々なジャンルで活躍。会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」のメンバーは2000人を超える。『ゼロ』(ダイヤモンド社)、『本音で生きる』(SB新書)、『多動力』『不老不死の研究』『金を使うならカラダに使え。』(ともに幻冬舎)ほか、著書多数。
監修
■プロフィール
予防医療普及協会
(よぼういりょうふきゅうきょうかい)
予防医療普及協会
(よぼういりょうふきゅうきょうかい)
2016年9月、堀江貴文や経営者、医師、クリエイター、社会起業家などの有志を中心として発足。予防医療に関する正しい知見を集め、啓発や病気予防のためのアクションを様々な企業や団体と連携し、推進している。これまでに胃がんの主な原因である「ピロリ菌」の検査・除菌啓発を目的とした「ピ」プロジェクトや、大腸がん予防のための検査の重要性を伝える「プ」プロジェクトなどを実施。内科医、脳神経外科医、産婦人科医、歯科医など診療科や研究の専門領域を横断した医師団が、活動をサポートしている。
第1章
健康診断・人間ドックと予防医療×お金
経済合理性のある健診
日本人間ドック・予防医療協会
荒瀬 康司 理事長
得する金額
第1章
健康診断・人間ドックと予防医療×お金
経済的メリット
人間ドックを毎年受診すると、
5年間で1人あたり33万円の
医療費を削減できる
第2章
内視鏡検査と予防医療×お金
「年間2万3000円でできる
未来の自分への投資」
消化器内視鏡科
野中 康一 教授
得する金額
第2章
内視鏡検査と予防医療×お金
経済的メリット
胃カメラ、大腸カメラで継続的に検査しないと、
1人あたり月間30万円以上の
経済的損失を被る可能性がある
【本書P76~P77】
病気やけがによって休業した場合、健康保険組合から傷病手当金が支給されるが17、金額は日給の3分の2だ。月収35万円の場合、月額23万4500円で11万5500円の減収となる。
体力の回復の遅れや仕事の内容によって復帰に時間がかかれば、さらに損失額が大きくなってしまう。仮に1か月間休職したと定すると、腹腔鏡手術の費用などと併せて、約30万円以上の経済的損失を被ることになる。
胃カメラ、大腸カメラによる早期発見は、「経済的負担の面でも患者にやさしい」のだ。
第3章
無痛乳がん検診と予防医療×お金
女性を救う「命のサブスク」
高原 太郎 客員教授
得する金額
第3章
無痛乳がん検診と予防医療×お金
経済的メリット
MRI乳がん検診を定期的に受けると、
1人あたり年間235万円
の労働損失を防げる
【本書P103】
また国家レベルで乳がんによる社会的損失を考えてみると、第4章でも紹介している、国立研究開発法人国立がん研究センターが発表した「予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担」によると、女性の場合、乳がんによる労働損失が一番大きく、年間で約2326億円にもなるのだ。これを2021年の女性の乳がん患者数(9万8782人)で割ると、1人あたり235万4680円となる。
第4章
がんと予防医療×お金
予防医療の一角を担う
可能性は大きい
研究所 がん免疫研究部門
籠谷 勇紀 教授
得する金額
第4章
がんと予防医療×お金
経済的メリット
がん免疫療法が予防に実用化されると、
1人あたり年間1035万円の
経済的負担が減る
【本書P133】
国立研究開発法人国立がん研究センターが2023年に発表した資料によると、治療費など、がんの経済的負担は1年間で約2兆8597億円(男性が約1兆4946億円、女性が約1兆3651億円)。そのうち予防可能ながんの経済的負担は約1兆240億円(全体の約36%)を占める。これを最新(2021年)のがん患者数で割ると、1人あたり約1035万円だ。
第5章
総合診療医と予防医療×お金
未病の救世主となり得るか?
北村 聖 名誉教授
得する金額
第5章
総合診療医と予防医療×お金
経済的メリット
総合診療医が広く普及すると、
1人あたり年間2万4000円
の医療費を減らせる
【本書P154~P155】
総合診療が医療費削減に及ぼす効果に関しては、厚生労働省が推進して実施された興味深い研究がある。その研究では、総合診療を実施したことによる医療費への影響について、海外の状況を調査している。
例えば、アメリカではプライマリ・ケア医がいる成人は、いない成人と比べて33%医療費が少なく、プライマリ・ケア医の多い州ほど、州の医療費が少なく済んでいる。また少し古いデータだが、ドイツでは総合診療医にあたる家庭医の制度を導入した2004年の医療費は、前年の228億6000ユーロから214億3000ユーロに減少した(約6.3%の減少)。
海外の例をそのままわが国に当てはめるのは、少々強引かもしれないが、ドイツのデータを引用すると、日本の2023年度の医療費は約48兆915億円だから、総合診療医が持つ医療費削減効果は約3兆298億円、国民1人あたりに換算すると、年間で約2万4000円のポテンシャルがあると言えるだろう。
第6章
ポリファーマシーの改善と予防医療×お金
即ち医療費の無駄遣い
平井 みどり 名誉教授
得する金額
第6章
ポリファーマシーの改善と予防医療×お金
経済的メリット
ポリファーマシーを解消すると、
対象者1人あたり最大で年間4万3000円の
医療費が削減できる
【本書P178~P179】
リユース薬の医療費削減効果は、九州大学と福岡市薬剤師会の試算で年間約640億円、残薬の経済的損失を6523億円と想定した滋賀県薬剤師会では、年間約2200億円と試算されている。
仮にこの金額と先にあげた残薬の解消による医療費削減額を合算して、ポリファーマシーによる有害事象が増える75歳以上の国民1人あたりの金額に換算すると、最も少ない試算で年間約3700円、最も多い試算では年間約4万3000円の医療費が削減できるという計算になる。
第7章
ライフスタイルの可視化と予防医療×お金
健康管理システム
が出現した
梅田 智広 研究教授
得する金額
第7章
ライフスタイルの可視化と予防医療×お金
経済的メリット
ライフスタイルセンシングを活用すると、
1人あたり生涯医療費が
474万4000円も節約できる
【本書P199~P201】
この点についても色々と調べてみると、画期的な研究に出会った。それは東北大学大学院の辻一郎教授の研究で、「生活習慣と健康診断の数値が、その人の平均余命と生涯医療費にどのように影響を及ぼすのか」というもの。結論としては、喫煙、肥満、歩行時間、飲酒に関して良好な生活習慣を持ち、血圧、血糖、脂質に関する健康診断の数値が良い人ほど、平均余命が長く、生涯医療費が安く済むというものだった。
例えば、血圧が正常な人は高血圧の人に比べて、平均余命が1.7年長く、生涯医療費は375万8000円少ない。血糖値が正常な人は高血糖の人に比べて、平均余命が2.1年長く、生涯医療費は82万9000円少ない。脂質の数値が正常な人は脂質異常の人に比べて平均余命が2.7年長く、生涯医療費は15万7000円少ない。
生活習慣病の人は3つの数値がすべて悪い場合が多いから、死ぬまでに医療費を474万4000円も損する可能性がある。
第8章
VRリハビリと予防医療×お金
介護予算を年間約18兆円も
削減できる!?
地域包括ケア教育研究センター
原 正彦 客員教授
得する金額
第8章
VRリハビリと予防医療×お金
経済的メリット
VRリハビリを
高齢者のフレイル予防に活用すると、
1人あたり年間266万円も介護予算が減る
【本書P225】
日本の介護関連予算(2025年度)は介護保険の総費用が14.3兆円、社会保障関係費のうちの介護分野が3兆7374億円、合わせて約18兆円と膨大だ。一般会計が115兆5415億円だから、日本の国家予算の約16%を占めている。
VRリハビリを使った体性認知協調療法を使えば、国の介護関連予算・約18兆円を削減できる可能性がある。内閣府のデータでは65歳以上の要介護または要支援の認定者数は676万6000人(2021年度)だから、1人あたり年間で約266万円の削減となる。その潜在能力は非常に大きい。
第9章
医療DXと予防医療×お金
予防医療のアクセル
となり得る
加藤 浩晃 特任教授
得する金額
第9章
医療DXと予防医療×お金
経済的メリット
医療DXが
本格的に導入されると、
1人あたり年間171万円の経済効果がある
【本書P260~P263】
さて、ここまで医療DXの概要と病気予防への貢献について述べてきたが、最後に医療DXの経済効果について論じてみようと思う。
(中略)
まず「医療DXの医療費削減」についてだ。
これについてはEU加盟国で導入が始まったEHDS(European Health Data Space:欧州医療健康データスペース)に関する研究を参考にしてみたい。
EHDSは、2025年1月に成立したEU加盟国における医療健康データを安全に活用するための法律的枠組みである。欧州版医療DXと呼べるものだ。この研究によると、EHDSが稼働することによって、10年間で110億ユーロ(日本円で1兆9030億円)の医療費が削減されるという。年間に直すと、1903億円だ。
次に「生活習慣病予防の経済的ポテンシャル」である。
(中略)
これについては、少し古いデータになるが、第一生命経済研究所が分析レポート18を出している。それによると、健康保険組合が生活習慣病の予防のために実施する様々な事業によって、実質GDPを年間4055億円も押し上げる効果があるとしている。
3つ目の「ヘルスケア産業の拡大・成長」だが、これについては経済産業省の資料を参考にしてみた。
経済産業省の試算によると、医療DXの施策を推進することで、100兆8000億円の市場規模の拡大を目指すということになっている(内訳はヘルスケアサービスが59.9兆円、介護が16.9兆円、医療機器が21兆円、医薬品が30兆円)。
この3つを合計すると、101兆3958億円。この金額を生活習慣病のリスクが上がる特定健診・特定保健指導対象である40歳~74歳の人口5930万人(2020年国勢調査)で割ると、医療DXの経済効果は1人あたり約171万円となる。





