DISCUSSION 進行性肺線維症とは何か?―呼吸器内科の視点―
進行する線維化を疾患横断的に捉える進行性肺線維症(PPF)の概念が提唱されたが、臨床現場において十分に整理・共有されているとはいい難い。PPFの基準や進行の判断、治療介入のタイミング、治療選択の考え方は施設や医師によって異なる。そのため、呼吸器内科と膠原病内科との連携に加え、多職種による包括的な管理や地域医療との役割分担などが求められる。本座談会では、呼吸器を専門とされている先生方にお集まりいただき、PPFの概念整理と実際の診療体制、治療方針決定の課題、新しい抗線維化薬への期待などについて、実臨床に即した解説をお願いした。
PPFはどのように捉えられてきたか?概念と疫学
近藤 進行性肺線維症(progressive pulmonary fibrosis:PPF)は近年提唱された新しい概念ですが、これまで実臨床で経験されてきた病態を改めて整理し直したものといえます。従来、線維化が進行する間質性肺疾患(interstitial lung disease:ILD)は特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)がメインで、慢性過敏性肺炎や膠原病関連間質性肺疾患(connective tissue disease-associated ILD:CTD-ILD)などで類似の経過をたどる症例が一定数存在することが知られてきました。こうした背景のもと、原因疾患の違いを超えて、「進行する線維化」という共通の臨床像に着目する考え方が生まれ、PPFという概念が提唱されました。近年、IPF 以外の疾患でも抗線維化薬の有効性が示されたことがPPFの臨床的な意義をさらに高めたといえるかもしれません。
PPFの定義や診断基準については、一定期間内の呼吸機能の低下、画像所見の進行、あるいは症状の悪化などの組み合わせで判断することが一般的ですが、一方で、どの指標をどの程度重視するかは定まっておらず、実臨床ではどの時点で進行と判断するか、治療介入を行うべきかが悩ましい問題となります。疫学的観点からみてもPPFは単一の疾患ではなく、さまざまな基礎疾患を背景にもつ患者集団であるため、その頻度や特徴を一律に捉えることは困難です。
しかし最近の報告では、IPFとサルコイドーシスを除くILD患者におけるPPFの占める割合は約30%であったことから1)、決してまれな病態ではないという認識が広がってきています。さらにPPFの基準を満たす症例はIPFと同等の予後を示すとの報告もあるため2)、PPFは臨床上の重要な課題といえるでしょう。
そこで本座談会では、呼吸器領域を専門とする先生方にお集まりいただき、PPF診療の実際や治療上の課題、進行の評価方法、新たな抗線維化薬への期待についてディスカッションしたいと思います。
ILD/PPFに対する医療体制と多職種連携の実際
近藤 はじめに、先生方が日常臨床で実践されている、診療体制と職種連携の実際について教えていただけますか。
千葉 多彩な原因疾患を有するPPFではそれぞれの病態に即したオーダーメイドな治療を行うため、医師の判断を必要とする場面が増えています。QOLを向上させて治療中断を防ぐためにも、近年注目されているtreatable traits(治療可能な特性)がILD/PPF治療において重要になります。ILDにおけるtreatable traitsアプローチとして、自己免疫疾患に対する膠原病内科、肺高血圧症に対する循環器内科、胃食道逆流症(gastro esophageal reflux disease:GERD)に対する消化器内科、精神症状に対する精神科の介入・連携のほか、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどの多職種との連携も求められます3)。
当科では抗線維化薬導入クリニカルパスを作成し、1週間の入院で安全な抗線維化薬の導入をはかり、多職種連携によりさまざまな課題に対応する取り組みを進めています(表1)。導入前から病棟薬剤師が患者さんに薬剤指導・副作用説明を行い、特に下痢や日光過敏などの副作用について丁寧に周知しておくと、治療中断に至ることが少なくなる印象があります。
クリニカルパスでは看護師も導入前からアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)シートの確認と症状・状態観察、アセスメントを行います。ILD/PPFは肺がんと同じく予後不良な疾患ですが、患者さんの認識には大きな違いがあるため、治療を軽視し、中断につながっている可能性があります。クリニカルパスでACPを開始したのは、IPF患者の死亡原因は急性増悪が約4割を占めるにもかかわらず4)、当院では状態が悪くなったときの心停止時の心肺蘇生法を行わないDNAR(do not attempt resuscitation)をILD/PPF患者本人ではなく、ご家族への説明で取得していた割合が6割にのぼったことがきっかけでした。本人不在の医療を解消すべく、抗線維化薬導入前にACPを必ず行い、その後も繰り返し行うことにしたのです(図1)。適切な話題を適切な時期に提供することで、患者さん自身の疾患理解につながり、治療継続が予後を左右するという認識が徐々に生まれるため、治療中断を回避できると感じています。
近藤 ありがとうございました。抗線維化薬導入クリニカルパスの運用、特にACPを含めた多職種連携の素晴らしい取り組みをご紹介いただきました。早稲田先生、馬場先生のご施設ではいかがでしょうか。
早稲田 当院でも千葉先生と同様に、抗線維化薬導入クリニカルパスを作成し、導入前からACPを実践しつつ、多職種によるチームで月1回ミーティングを行い対応しています。札幌医科大学附属病院との違いは、チームに薬剤師がおらず、医師・認定看護師・理学療法士・管理栄養士で構成されていることがまず挙げられます。さらに、当院はILD/PPFに特化した施設ではなく、医師の説明などにばらつきが生じる可能性があるため、診療の標準化を目的として多職種連携を実施しています。
馬場 当施設は循環器呼吸器病センターであるため、特徴として膠原病内科などとの多科連携が挙げられます。ILD/PPFの患者像はIPFや慢性過敏性肺炎よりも若年になるため、働き世代での治療継続において看護師の介入は今後ますます重要になるでしょう。両先生の施設で実践されているACPを今後ぜひ参考にしたいと思います。


