DISCUSSION 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)治療の新戦略ーマバカムテンの臨床活用を極めるー

北岡 裕章 先生 高知大学医学部附属病院 病院長

大木元 明義 先生 市立宇和島病院 副院長・内科統括科長・アカデミックセンター長

時田 祐吉 先生 日本医科大学循環器内科学 講師

前川 裕一郎 先生 浜松医科大学内科学第三講座(循環器内科) 教授

サマリー

閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の診療を取り巻く環境は、新薬の登場や遺伝子検査の保険適用など、ここ数年で大きく様変わりしている。今回の座談会では、HOCM 診療の新戦略をテーマに三人の先生方をお招きし、マバカムテンという新たな薬物治療の選択肢に焦点を当てつつ、HOCM 診療全般にわたって幅広く、実臨床に即したご意見をうかがった。


肥大型心筋症診断の進歩-圧較差を見逃さないために-

北岡 本日は、閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy:HOCM)における治療の新戦略について、エキスパートの先生方にご意見をうかがっていきたいと思います。まずはHOCMの診断について、特に圧較差をどう確実に検出するか、先生方が臨床上で注意されている点があればお聞かせください。大木元先生、いかがでしょうか。

大木元 最近のデータでは、非閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic nonobstructive cardiomyopathy:HNCM)とされた患者さんの約60%に潜在性の左室流出路閉塞があるとの報告があります。閉塞があれば心不全などのリスクが高くなりますから、当院では肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)の患者さん全員にバルサルバ負荷をかけることで、閉塞を見逃さないようにしています。また、夏季にフラつきがあったり、動悸やめまいといった自覚症状がある患者さんは、慎重に評価するようコメントをつけてオーダーしています。Bモードで僧帽弁の収縮期前方運動(systolic anterior motion:SAM)が見える患者さんでは特に注意するように、と検査技師に伝えています。

第Ⅲ相臨床試験のHORIZON-HCMでは、運動負荷後の圧較差をみていましたが、実臨床ではマンパワーの問題もありなかなか困難です。バルサルバ負荷も、風船を膨らませる方法や、仰臥位、立位とさまざまな方法が提案されていますが、当院では一般的な方法で行っています。

北岡 バルサルバ負荷をかけての心エコーは、最近になってスクリーニングに取り入れられたのでしょうか。

大木元 そうですね。マバカムテンが使えるようになる前は、徹底できませんでした。マバカムテンの適応として、バルサルバ負荷後の圧較差50mmHg 以上であることが求められるため、必要な検査として実施するようになりました。

北岡 ありがとうございます。時田先生は、いかがでしょうか。

時田 当院でも、以前は安静時の心エコーで評価していたのですが、マバカムテンが出てからは、HCMが疑われるような肥大のある患者さんには、できるだけ全例でバルサルバ負荷をかけています。自覚症状がある患者さんで、バルサルバ負荷で有意な圧較差が誘発されなかった場合には、なるべくエルゴメーターによる運動負荷をかけるようにしています。

北岡 ありがとうございます。前川先生、いかがでしょうか。

前川 以前は、経皮的中隔心筋焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation:PTSMA)後の患者さんに限ってバルサルバ負荷をかけていたのですが、今は多くの患者さんで行っています。左室流出路圧較差が100 mmHg以上ある患者さんは行わなくてもよいことにして、それ以外は基本的に全例で負荷をかけています。

北岡 ありがとうございます。これまでも負荷が大事といわれていても、なかなか行えていませんでしたが、マバカムテンの登場により積極的に負荷をかけるようになったことは、どの施設でも共通しているようですね。

 

薬物治療の進歩

1.治療薬選択のポイント

北岡 β遮断薬や、カルシウム拮抗薬であまり圧較差が改善してこないような場合、HCMの圧較差軽減のための薬物治療としては、従来からシベンゾリンが使われてきました。昨年からマバカムテンが新たに選択肢に加わりましたが、臨床ではどのように使い分けていらっしゃいますか。

前川 現実的には、薬物治療ではまずシベンゾリンか、あるいはジソピラミドを使っています。シベンゾリンは以前から使っていてよくわかっている薬ですので、血中濃度や心電図変化をみながら処方しています。

マバカムテンは、現状では2週間処方であり、高価な薬なので可能なら難病申請したほうがよいことから、導入がやや煩雑になってしまいます。ですので、中隔心筋縮小術(septal reduction therapy:SRT)が困難な例や、他院からシベンゾリンに抵抗性で、SRT の適応として紹介された患者さんに本薬剤の効果、安全性と問題点についての説明をし、特にペースメーカーの可能性からPTSMA は避けたいとおっしゃる例では、マバカムテンを導入しています。

北岡 SRT が難しそうな場合は、先にマバカムテンを試してみるフローになっているのですね。時田先生はいかがですか。

時田 シベンゾリンはずっと使ってきている薬で、左室流出路閉塞の改善効果も実感できています。ですから、β遮断薬で効果が不十分な患者さんに対する次の一手としては、今までどおりシベンゾリンを使っています。ただ、シベンゾリンは腎排泄なので、腎機能が低下している患者さんでは、マバカムテンを選択することもあります。

SRT との関連では、解剖学的にPTSMA に不向きな症例や、左室流出路だけでなく心室中部閉塞の合併で焼灼範囲が広くなり、房室ブロックのリスクが高い症例では、先にマバカムテンを試してみてはどうかとお話ししています。また、PTSMAでは造影剤が必要になるので、腎機能が低下している患者さんでは、マバカムテンを選択する場合があります。

大木元 マバカムテンは、もう少し簡便に使えるようになれば第一選択薬になる可能性のある薬だと思っています。実際に、HOCMでは圧較差がゼロ近くまで下がることも多く、NT-proBNP も相関して下がることが報告されています。当院で経験したHORIZON-HCM 試験の登録患者さんは、シベンゾリンでNT-proBNPが2,000 pg/mL くらいまで下がったところで停滞していたのですが、マバカムテンへの変更により、最終的に70 pg/mLまで改善しました。マバカムテンは心筋細胞の脱落、拡張相への移行といった病態そのものを抑えているのではないかと推測しています。ですから、β遮断薬、シベンゾリンで治療し、NT-proBNPの改善が停滞してきたような患者さんに対しては、マバカムテンへの変更を検討してもよいのではないかと思います。


2. 実臨床でのマバカムテンの使用感

北岡 シベンゾリンとの比較ではなく、マバカムテンそのものの印象はいかがですか。

大木元 HCMの背景には、心筋を構成するサルコメアタンパク(sarcomere protein:SP)の病的バリアントがあり、そのために非対称性心筋肥大、過収縮、拡張機能障害が起こってきます。15種類以上の原因遺伝子が同定されていますが、どの遺伝子が原因であっても、この病態の行きつくところは、ミオシンとアクチンのクロスブリッジの増加に収束すると思っています。そして、選択的心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンは、そのクロスブリッジの結合を外すことで、病態そのものの治療薬として働くのではないかという印象をもっています。

HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction)をはじめとする心不全の治療薬としては、fantastic four といわれるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(angiotensin receptor neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2(sodium/glucose cotransporter 2)阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)、β遮断薬などがありますが、いずれも病因・病態には迫っておらず、神経体液性因子などを介して間接的に効果を及ぼすものです。一方、マバカムテンは、HCMの病因そのものにアプローチする薬剤ではないかと考えています。

時田 実感として、症状ももちろんよくなるのですが、処方後の次の外来で測ってみると、NT-proBNPの値が劇的に、半分くらいまで下がる例が多いですね。これは、今までの治療にはない効果だと思います。トロポニンも経時的に下がっていきますし、それらのバイオマーカーが大きく下がることから、心肥大にもよい効果を及ぼすのではないかと感じています。

ただ、現状では、増量が12週ごととされていて、早いペースで増量していくことができません。そのため、圧較差が大きい患者さんでは、十分な症状の改善に至るまでに時間がかかる印象があります。SRT は圧較差の程度によらず、短期的な効果が得られますので、この両者の時間的な差は小さくないと思っています。

前川 私も、まったく同じ印象です。NT-proBNPも下がりますし、患者さんは症状もよくなったとおっしゃるのですが、PTSMAは術後すぐによくなり、重症例では特に改善効果が実感されるのに対し、マバカムテンは効果発現までに時間がかかると感じます。

もっとも、1例だけですが、カテーテル治療ができないような、frailtyが強く、胸水も溜まっていて、NYHAⅢ度の患者さんにマバカムテンを用いたところ、利尿薬を減量することができ、リハビリでfrailty も改善した例を経験しました。従来の薬剤とはまったく違う印象で、重症例で薬物治療を行うなら、マバカムテンを選択するのは悪くないと思います。

北岡 ありがとうございます。私も、2~3カ月使ってみて、心電図上で左室肥大(left ventricular hypertrophy:LVH)の所見が軽くなった経験があり、大木元先生がおっしゃったように、心筋への直接的な効果があるかもしれないと感じています。