SPECIAL ISSUE 膠原病領域における進行性肺線維症診療の現在地と将来の展望

DISCUSSION 進行性肺線維症とは何か?-膠原病・リウマチ科医の視点ー

川畑 仁人 先生 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科主任教授

藤井 隆夫 先生 和歌山県立医科大学医学部リウマチ・膠原病科学講座教授

加藤 将 先生 富山大学学術研究部医学系内科学第一講座教授

 進行性肺線維症という疾患横断的な新しい概念が提唱されてから、その考え方は徐々に広まりつつあるものの、関連疾患のガイドラインに明記されている例があまりないことなどもあり、いまだ一般臨床の現場において十分に浸透しているとはいい難い。本日の座談会では、膠原病を専門とされている先生方にお集まりいただき、膠原病関連間質性肺疾患に焦点を当てて、進行性肺線維症の概要や、診断のための評価方法、治療にあたっての層別化などについて、臨床の現場に即した解説をお願いした。


進行性肺線維症の概念の臨床的意義

川畑 本日は、新しい概念である進行性肺線維症(progressive pulmonaryfibrosis:PPF)の位置付けや臨床上のポイントについて、膠原病をご専門とされている藤井隆夫先生、加藤将先生にお伺いしてみたいと思います。

膠原病関連間質性肺疾患(connectivetissue disease–associated interstitial lungdisease:CTD-ILD)は、背景となる膠原病の違いによって、肺病変の臨床像、画像所見、臨床経過が大きく異なります。臨床で遭遇することが多い膠原病としては、関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)、皮膚筋炎/多発性筋炎(dermatomyositis/polymyositis:DM/PM)、アミノアシルtRNA 合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetase:ARS)の自己抗体を原因とする抗合成酵素症候群(anti‑synthetase syndrome:ASyS)などの炎症性筋疾患、全身性硬化症(systemic sclerosis:SSc)、さらに抗好中球細胞質抗体(antineutrophilcytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎などがあげられます。

藤井 CTD-ILDは、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)を除く多くの膠原病で認められます。画像所見が類似していても、ILD の進行度や病勢は、川畑先生がご指摘されたように基礎疾患によって大きく異なります。また、活動性や予後因子などは、患者ごとに異なり多様な臨床経過を呈します。

川畑 CTD-ILDの病態は、近年、炎症と線維化という2つの視点から捉えることが増えてきています。炎症には抗炎症治療や免疫抑制療法、線維化には抗線維化療法、と治療方針を整理しやすい利点があると思いますが、炎症優位か線維化優位かという病態のバランスは、基礎となる膠原病によって異なるのでしょうか。

藤井 DM/PM やANCA 関連血管炎に伴うILD では、炎症の関与が強いと考えられます。一方、RAでusual interstitial pneumonia(UIP)パターンを呈する症例や、ASyS-ILDでは、炎症で発症したとしても、経過とともにPPF のような進行性線維化の様相を示すことがあります。SScにおいても炎症が強く出現する場合はありますが、臨床的に問題となるのは線維化病変です。したがって、基礎となる膠原病ごとの違いに加え、同一疾患であっても経過の中で炎症優位か線維化優位かは変化しうるため、その見極めが極めて重要になります。

川畑 PPF という疾患横断的な概念が新たに提唱されましたが、診断名ではないこのような概念の登場は、膠原病の臨床の現場にどのような影響をもたらすのでしょうか。

加藤 CTD-ILDという用語自体、ある種の曖昧さを含んでいます。まずCTDは膠原病全体を指すため、RAなのかSScなのか、あるいは膠原病性筋DM/PMなのかが特定されていません。さらにSScやDM/PMでは、自己抗体の違いによって病態が大きく異なりますので、CTDという概念は本質的に症候群的なものといえます。またILDも包括的な用語であり、急性か慢性か、病理組織学的にUIPなのか、非特異的間質性肺炎(nonspecific interstitialpneumonia:NSIP)なのか、器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)なのかといった点が規定されておらず、病態は多様です。つまりCTD-ILDとは、症候群的概念同士が組み合わさったものであり、治療方針や薬剤選択を考える際には非常に複雑になります。

 そこで視点を変え、PPF という概念が定義されました。CTD-ILDの中でPPFに該当する症例を対象に臨床試験が行われ、抗線維化薬を中心とした治療が有効であることが示されました。PPF には多様な基礎疾患や病理パターンが含まれますが、実臨床において治療適応を判断するうえで重要な概念といえます。


肺線維症の進行をどう検出するか

川畑 CTD-ILDの診療において、どのような患者さんがPPF に該当すると考えられるのか、またPPF を疑って精査すべき症例の判断ポイントについて教えていただけますか。

加藤 PPF は経過によって定義される概念であり、基本的には一定期間のフォローが必要になります。変化を評価するためには、少なくとも2回以上の評価が不可欠です。ただし、基礎疾患となる膠原病の中で、PPFをきたしやすい疾患と、そうでない疾患が経験的に知られています。

例えば、抗線維化薬と位置付けられているチロシンキナーゼ阻害薬のニンテダニブはSSc-ILD に適応がありますが、これはSScでは高率にPPFをきたし、抗線維化治療が必要となるためと理解できます。SSc の場合は、診断時点からPPFを念頭に置いた評価が必要になります。

一方、RAや膠原病性の筋炎は、必ずしもPPF が認められるわけではなく、2回以上の評価を通して経過をみなければ、PPF かどうかを判断することは難しいと考えます。

川畑 PPFでは、呼吸器症状の悪化、肺機能低下、画像上の進行という3つの所見が重要とされています。実臨床では、どのような点に着目して評価すればよいのでしょうか。

藤井 おっしゃる通り、肺線維化の進行は1回の診察では判断できません。ただし進行リスク因子は明らかになってきています。例えば、SScにおける抗トポイソメラーゼⅠ抗体陽性例やRA-UIP などは進行リスクが高いとされています。また抗ARS 抗体陽性のASyS-ILD では、急性期にはNSIP 様の病像を呈して炎症が落ち着いた後も線維化が進行することがあります。ですから、そういったリスク因子について、自己抗体検査などによってリスクを把握しておくことが大切です。リスクのある患者さんでは、臨床的に安定しているようにみえても、少なくとも年1回は肺機能検査や胸部CT で評価する必要があります。

日常診療では、自覚症状の変化を丁寧に聴取し、画像所見、肺機能検査、KL-6などの血液マーカーも併せて評価します。そしてPPF あるいはprogressive fibrosing(PF)-ILDの指標のうち複数項目で悪化が認められれば、肺線維化が進行していると判断してよいと考えます。

川畑 画像所見やDLCO 低下、呼吸器症状の悪化がみられても、それらすべてがCTD-ILD の線維化進行とは限らないと思います。どのように鑑別していくべきでしょうか。

加藤 これも、基礎疾患によって注意点が異なります。RAでは免疫抑制状態にあるため、肺炎を合併しやすく、また肺炎によく似た病像を呈す器質化肺炎も比較的高頻度にみられます。さらに結核や肺がんの合併にも注意が必要です。

CTD-ILDに似たすりガラス影を呈する病態として、ニューモシスチス肺炎があります。感染症でありながらILD 様にみえる点が特徴です。またメトトレキサートなどによる薬剤性肺障害も鑑別に挙げられます。SScでは感染症や線維化に加えて血管障害の影響も大きくなります。肺動静脈のリモデリングにより肺動脈性肺高血圧症を合併するほか、肺静脈閉塞症が生じることもあり、小葉中心性のすりガラス影としてILD に類似してみえることがあります。さらに心筋線維化に伴う心不全による肺うっ血も同様の画像所見を呈する場合があります。したがって、病状悪化を認めた場合には、これらの可能性を一つずつ丁寧に鑑別していく必要があります。

川畑 PPF の進行について、加藤先生はどのようにモニタリングされていますか。

加藤 現時点では確立した方法はありません。検査頻度を増やせば変化は捉えやすくなりますが、CT には被曝の問題があるためバランスが重要です。血液検査、症状の聴取、運動負荷後の最低酸素飽和度などは月1回の外来でも評価可能ですので、まずは侵襲の少ない指標で経過を追い、その結果を踏まえてCT 撮影や呼吸機能検査の実施時期を判断するのが現実的ではないかと考えています。