ドライシンドローム(乾燥症候群)は分泌機能の低下による不快感など、QOLに影響を与えるだけでなく、生体の恒常性を障害する原因となることも明らかである。特に、加齢とともに本症の罹患率は上がることから、高齢者では乾燥に伴う機能障害が重篤化し死に至るリスクが高まるため、これらの対処は重要な意味をもつ。身体の分泌機能は生体防御の根幹をなすものであり、その機能低下は身体機能に多大なる影響を与えることはいうまでもなく、さらに、乾燥による不快感に不安をもつことで精神的に不安定になるなど双方向的な精神神経的影響も見逃すことはできない。
このようにドライシンドロームは、社会的な環境要因も含め、多くの原因によって発症し、それぞれが複合的に重複している場合が多いだけでなく、ドライシンドロームの発症が二次的な病態を惹き起こす誘因になり得るのである。
そのため、本書では原因となる病態・疾患はもちろんのこと、診断に必要な検査方法、鑑別法、さらにドライシンドロームが与える多くの影響についても解説し、日々の診療に役立てるよう代表的な症例についても紹介することとした。本症の診断・治療は、各施設でそれぞれの専門領域で独自の手法により行われているのが現状であり、その対応も多様である。本書によりドライシンドロームに関する正しい理解を横断的に深め、診断法、対処法の実践に活用し、治療体系の新たな進展を得ることができれば幸いである。
(斎藤一郎・坪田一男「序文」より)
第一章 ドライシンドロームの概念
1.ドライアイからみたドライシンドローム
2.ドライマウスから考えるドライシンドローム
第二章 水と乾燥のサイエンス
1.水とは何か?体内の水分は?
2.細胞と水(アクアポリンの役割)
3.角層に対するトレハロースの保湿・保水効果
4.脱水のサイエンス
5.水分補給のサイエンス(経口補水療法)
6.サーカディアンリズムと外分泌腺の障害
7.湿度は何を測定しているのか?
8.乾湿計による湿度測定の原理と応用
9.湿度センサーについて
10.世界の環境湿度変化―温暖化と関係しているのか
第三章 ドライシンドローム医学の基礎
1.病気としてのドライシンドローム
2.グルココルチコイドの作用とドライシンドローム
3.酸化ストレスとドライシンドローム
4.免疫とドライシンドローム
5.代謝異常症とドライシンドローム
6.男性ホルモンとドライシンドローム
7.女性ホルモンとドライシンドローム
第四章 他科の先生のためのドライシンドロームの臨床
1.ドライアイの検査、診断と治療
2.ドライマウスの検査、診断と治療
3.ドライスキンの検査、診断と治療
4.ドライノーズの検査、診断と治療
5.ドライバジャイナの検査、診断と治療
6.精神医学とドライシンドローム
7.シェーグレン症候群
8.精神神経疾患とドライシンドローム・歯科心身症
9.ドライシンドロームの漢方医学的アプローチ
10.薬剤の副作用としてのドライシンドローム