わが国において,食生活の変化やヘリコバクター・ピロリ菌の感染率の低下・除菌により胃がんの発生頻度は減少してきているものの,なお,罹患数は男女計で第一位である。一方,胃がんによる死亡は著しく減少しており,これには,胃がんの臨床(検診,内視鏡,外科治療,薬物治療)の進歩が大きく貢献している。胃がんの病理学においても,わが国は従前より世界のトップランナーであり,臨床との密な連携により,今後もその位置に揺るぎないことを信じるものである。
胃がんの臨床では,胃の解剖・生理,病理,内視鏡,内科的・外科的治療等に関する基本的事項をすべて知ることが必要であり,とりわけ,治療に直結する病理の知識は不可欠である。本書は,胃がん診療に係るこれまでの進歩や変遷,最先端の研究や技術を横断的に情報提供する目的で2008年に創刊された『胃がんperspective』に掲載された病理に関する連載「専門医のためのアトラス」を加筆・修正のうえ再録したものである。
本アトラスでは,臨床医にとって必要な胃に関する病理学的知識をまとめ,代表的な肉眼像と組織像を提示している。第1章から第4章では,ピロリ菌感染による胃粘膜の組織学的変化,胃がんの分化度別にみた臨床病理学的特徴,粘液形質との関係,転移の病理像を示した。第5章から第7章では,診断・治療に直結した病理学的情報として,Group分類,特にGroup 2とGroup 3を解説し,さらに内視鏡的切除標本の病理診断,分子標的治療・化学療法に関する病理像を提示した。また,第8章では,MALTリンパ腫,GISTなど胃に発生する種々の腫瘍について,肉眼像・組織像と臨床病理学的特徴を示した。
このアトラスが,胃がんの臨床に携わるすべての方のお役に立ち,胃がんの日常診療の向上に寄与し,ひいては,患者さんのためになることを願うものである。
(安井 弥「序文」より)
第1章 炎症と胃がん
H.pylori感染・除菌と組織像/西倉 健 ほか
胃癌と背景粘膜/西倉 健 ほか
胃のさまざまな隆起性病変/和田 了
第2章 高分化腺癌
胃腺腫と分化型癌/九嶋亮治
高分化腺癌の異型度と臨床像/八尾隆史 ほか
胃癌と粘液形質(1)腸型胃癌/八尾隆史 ほか
胃癌と粘液形質(2)胃型胃癌/菅井 有
第3章 低分化腺癌
充実型低分化腺癌の臨床病理学的特徴/江頭由太郎 ほか
スキルス胃癌/大倉康男
第4章 転移組織
胃癌の組織型と特徴的な転移像/大倉康男
胃癌原発巣と転移巣の病理像/仙谷和弘 ほか
第5章 Group分類
Indefinite for neoplasia, Group 2とは/下田忠和 ほか
Group 3病変/和田 了
第6章 ESDと病理
内視鏡所見,生検とESD標本における診断の乖離/松原亜季子 ほか
ESD病理診断―壁深達度,脈管侵襲,断端―/藤田泰子 ほか
第7章 病理と化学療法
胃癌とHER2/桑田 健
術前化学療法と病理像/桑田 健
第8章 その他の胃がん
EBV関連胃癌/牛久哲男 ほか
胃MALTリンパ腫/田中 努 ほか
GISTを含む胃粘膜下腫瘍/廣田誠一 ほか
AFP産生胃癌/八尾隆史 ほか
胃内分泌細胞癌/岩渕三哉 ほか