膠原病は、たとえ医師でも容易に診断できる種類の病気ではありません。全ての患者さんが膠原病に特徴的な症状を示しているとは限らないからです。また、血液検査を行っても、その結果で診断が決まるわけでもありません。特殊な免疫学的検査が陽性であっても、膠原病とは診断できない場合が数多くあります。膠原病はそのような疾患群ですので、かかりつけの医師が膠原病を疑った場合だけではなく、症状がなくても血液検査で免疫学的異常が認められた場合に、われわれ専門医のところへ紹介となります。
一方、患者さんにとって、不安はその瞬間からはじまります。患者さんは、かかりつけの医師から「あなたは、膠原病かもしれないので、専門医に紹介します。」という説明を受けますが、かかりつけの医師にとっては専門外の疾患ですから、患者さんに対して膠原病についての説明は詳しくなされていないのが普通です。聞き慣れない膠原病とはどういう病気なのか?どんな治療を受けるのか?治療すれば治るのか?などなど大きな不安をかかえます。そこで、ネットで調べてみます。重症例が紹介してあります。特殊な症例報告がクローズアップされています。治療に難渋した症例も目に入ってきます。不安は広がるばかりです。患者さんは、そういう状況を経て、われわれの診察室へ入ってこられます。
われわれ膠原病専門医は、患者さんの症状の起こり方や経過を尋ね、さまざまな病気を除外しながら鑑別診断を進めていきます。そのためにこちらから、多くの質問する必要がありますが、その間にも、患者さんは「膠原病って、治らないと聞いたのですが、本当ですか?」「ステロイドをたくさん飲むのですか?」「iPS細胞ができたら治りますか?」など、数多くの質問を浴びせてきます。まだ、膠原病であると診断してもいないときからです。そして、患者さんの症状からみて、膠原病ではないとお伝えしても、「本当ですか?」「血液検査では陽性なのに?」「もっといろいろ検査しなくてはならないのではないですか?」「CT・MRIは撮らなくていいのですか?」などと疑惑の視線を向けられることがよくあります。
この本では、膠原病の診療の際に、毎日の患者さんから浴びせられる質問を集め、われわれ専門医がどのように答えているかを、30名の膠原病専門医と日頃から多々お世話になる感染症科、整形外科、皮膚科、歯科の医師に記述していただきました。患者さんが読まれることを想定して記述していますが、一般医師が読まれることで、膠原病というものに親しみをもっていただくことができれば嬉しく思います。
(中島 衡「序文」より)
Chapter 1 病態
1.膠原病とはどのような病気ですか?
2.全身性エリテマトーデスとはどのような病気ですか?
10.関節リウマチは遺伝しますか?
Chapter 2 症状
16.口内炎がよくなりません。何かよい方法はありますか?
22.食事をしていると途中で顎が痛くなります。膠原病でしょうか?
Chapter 3 検査
33.抗核抗体が陽性といわれました。膠原病でしょうか?
34.セントロメア抗体が陽性といわれました。膠原病でしょうか?
Chapter 4 毎日の生活
42.特定疾患とはどんな病気ですか?
47.膠原病の人は献血できますか?
Chapter 5 合併症
61.関節リウマチになるとがんになりやすいのでしょうか?
67.肺高血圧症と、一般にいわれている高血圧症とは違うのですか?
Chapter 6 薬剤治療
70.ステロイド薬はなぜ膠原病に効くのですか?
77.関節痛には冷湿布と温湿布、どちらがよいのですか?
Chapter 7 治療全般
86.関節リウマチは関節の手術をしたら治るのでしょうか?
90.ループス腎炎は腎移植の対象になりますか?
Chapter 8 副作用など
92.ステロイド薬の副作用を教えてください。その予防はどのようにすればよいのでしょうか?
100.骨粗鬆症の薬は歯に悪いのですか?