皮膚科の診断は肉眼による画像診断学
先日、内科レジデント時代の同窓会があり、その場である内科医から、「発疹のみかたをまとめた本が欲しい」といわれました。私も150冊以上の本を編集してきましたが、単独執筆は数冊のみです。あと数年で定年を迎えることもあり、非専門医の先生方に、発疹を理論的に読み解く手法をまとめてみようという気になりました。発疹だけでなく、発疹を契機に非専門医が遭遇する重要な皮膚疾患にも言及しようと考えました。空き時間に少しずつ書こうと思ったので、遅々として進みませんでしたが、幸か不幸か、憩室炎で5日間ほど入院したのを機に一気に脱稿することができました。
「皮膚疾患の診断は難しい」という声をよく聞きますが、皮膚科医は肉眼で皮膚病変の画像診断をしているわけで、これは内科医が胸部X線像を読み解くのとほぼ同一の手法です。胸部X線像を肺野、骨、血管などに分けて丹念に画像解析するのと同様に、発疹を色調、形状、三次元変化などに分けて分析し、可能性のある鑑別疾患を2~3挙げ、そのほかの臨床情報を加味して頻度順に考えて、診断に到達するのが発疹による肉眼的皮膚画像診断の常道です。ただ違うのは、画像診断がカラー画像であること、発疹に触れることができること、五感を駆使して視覚のみでなく触覚により熱感や硬度、嗅覚により臭い、場合によっては聴覚により稔髪音などの情報を得ていること(さすがに味覚は使えませんが)、発疹の経過を肉眼で追うことができること、診断できない場合には皮膚生検により病理診断という顕微鏡的画像診断を比較的容易に駆使できること、などでしょうか。皮膚科領域でもダーモスコピーという拡大画像診断機器、エコーやMRIなどの皮下病変を診断するツールを利用することはありますが、ほぼ肉眼という究極の非先進的ツールを用いている点が大きな特徴です。この特徴は一見、時代遅れにも思われますが、大きな利点は機器が不要なので、いつでも、どこでも、どのような状況下でも「発疹を見る眼」さえあれば診断ができる点です。MRIやCTがないと診断ができないという若手医もいますが、この肉眼だけである程度の診断が即座にできる、というのが皮膚科の醍醐味と面白さではないでしょうか。しかも発疹は患者さんにもよく見えるので、診断や治療経過に対する患者さんの評価はきわめて厳しいものがあります。しかし、一般の人には「見えども見えず」の発疹から的確な診断に至り、ピンポイントで治療を選択できる小気味良さはなにものにも代え難い皮膚科医の爽快感なのです。
本書ではとかく難解とされる発疹を、画像診断学の手法に準拠して明快に解説し、非専門医がある程度の精度で診断に到達できる手法を、私の35年の臨床経験を踏まえて披瀝しました。軽快な語り口で肩が凝らないように心がけましたので、あまり系統的ではなく、次々に興味が移っています。ですからごろりと横になって読んでいただければと思います。病態や治療には触れていませんので、もし必要性や興味があれば教科書に当たってください。また同じ臨床写真を随所に繰り返し、重要なポイントを印象づけるようにしました。本書を機縁に1人でも多くの臨床医の先生方が「発疹のみかた」に開眼し、明日からの実地診療に役立ていただければとてもうれしく思います。
(序文より)
第1章 総論
1 発疹を診るために皮膚の解剖を知る
2 入室してきた患者の顔を見る
など
第2章 各論
1 紅斑を読み解く
2 紫斑を読み解く
3 白斑を読み解く
など
第3章 特論
1 ウイルス性急性発疹症
2 発熱を伴う発疹を見たら
など
第4章 コラム
1 水虫の急性増悪はかぶれか細菌感染症
2 陰嚢や手には白癬は起こりにくい
など