皮膚科医や耳鼻科医以外の医師にとって,おそらく抗ヒスタミン薬は,「昔からあるかゆみ止めでどれも同じ」という固定概念が定着しているのではないかと思われる。しかし,抗ヒスタミン薬を巡っては,ヒスタミンの脳機能への重要な作用が再認識され,インバース・アゴニストという新しい作用機序のコンセプトも提唱され,さらには薬物動態も克明に検証されたことから,インペアード・パフォーマンスを見据えた非鎮静性抗ヒスタミン薬の概念,さらには内服方法や中止の時期,あるいは倍量処方の有用性など,新しい知見が続々と蓄積されるようになった。抗ヒスタミン薬が頻用薬であり,ほぼすべての診療科の医師に処方機会があることから,本書では抗ヒスタミン薬の最新情報を集約し,日常診療のなかでどのように処方すべきであるかを実践的にまとめる意図で企画された。
まず,抗ヒスタミン薬の薬理学的あるいは臨床的な棲み分けや旧世代抗ヒスタミン薬との差別化を明示することで,改めて非鎮静性抗ヒスタミン薬を処方する意義を明快に強調した。続いて,多彩な臨床シーンで達人たちはどのように抗ヒスタミン薬の特性を活かすべく処方の工夫をしているのか,初診時と「次の一手」が求められる再診時に分けて解説をお願いした。実際の症例を呈示し,処方例だけでなく,処方箋に「なぜこの薬剤を処方したのか」,「この処方箋の背後にどのような意図があるのか」などをpoint by pointに「吹き出し」でコメントしていただくことで臨場感のある誌面となった。最後に,抗ヒスタミン薬処方時の注意事項を合併症,併用薬,眠気などに分け,処方のピットフォールを明快にまとめていただいた。
本書を一読することで,大きく変容した抗ヒスタミン薬の現況を通覧するとともに,実地臨床で即戦力となる達人処方のコツやツボを会得できよう。この一冊で明日からの抗ヒスタミン薬処方に達人の知の技法が活かされることを期待したい。
(宮地良樹「序文」)
第Ⅰ章 ポジショニング・定義
1.種類・薬理作用
Q1.ヒスタミンは現在も最強の起痒物質なのか?/椛島健治
Q2.抗ヒスタミン薬でかゆみを止める臨床的意義は?/宮地良樹
Q3.抗ヒスタミン薬以外の止痒薬にはどのようなものがあるか?/本田哲也
Q4.抗ヒスタミン薬はヒスタミンH1受容体拮抗薬ではないのか?/門野岳史/佐藤伸一
Q5.抗ヒスタミン薬はなぜ眠気を誘発するのか?/長沼史登/谷内一彦
Q6.数多く存在する抗ヒスタミン薬はどのように分類して考えればよいのか?(開発の歴史,経緯)/長沼史登/谷内一彦
Q7.非鎮静性・鎮静性の分類と第一世代・第二世代の分類は何が違う?/森田栄伸
Q8.抗ヒスタミン薬の効果と眠気は相関するのか?/宮地良樹
Q9.抗ヒスタミン薬の効果,眠気に個人差が生じる理由は?/川内秀之
コラム:抗ヒスタミン薬の眠気は慣れるのか?/戸倉新樹
Q10.抗ヒスタミン薬のインペアード・パフォーマンスは患者の労働生産性にどの程度影響を与えるのか?/室田浩之
Q11.鎮静性抗ヒスタミン薬はもう必要ないのか?/福井裕行
Q12.非鎮静性抗ヒスタミン薬の薬剤間に効果,眠気の違いはあるのか?/川内秀之
Q13.光学活性体の薬剤はどのようなメリットがあるのか?/福井裕行
Q14.抗ヒスタミン薬の外用は効くのか?/秀 道広
2.蕁麻疹
Q1.蕁麻疹に対して抗ヒスタミン薬は万能なのか?(病型別有効率)/秀 道広
Q2.抗ヒスタミン薬が奏効しない蕁麻疹は何が原因と考えるべきか?/神戸直智
3.湿疹・皮膚炎
Q1.アトピー性皮膚炎の患者全員に抗ヒスタミン薬は必要か?/中村晃一郎
Q2.抗ヒスタミン薬の抗炎症作用はどのようなものが期待できるのか?/戸倉新樹
Q3.なぜ血が出るまで掻いても掻破行動をやめないのか?/宮地良樹
Q4.アトピー性皮膚炎のかゆみを引き起こすヒスタミン以外のメディエーターは?/椛島健治
Q5.外用ステロイドがかゆみに効く機序は?/片山一朗
Q6.タクロリムスがかゆみに効く機序は?/大槻マミ太郎
Q7.アトピー性皮膚炎のかゆみにシクロスポリンは有効か?/中村晃一郎
4.その他
Q1.乾癬のかゆみに対して抗ヒスタミン薬を用いるべきか?/馬渕智生/小澤 明
Q2.透析のかゆみに対して抗ヒスタミン薬を用いるべきか?/段野貴一郎
Q3.透析のかゆみに対して抗ヒスタミン薬とナロキソン塩酸塩を併用することは可能か?/高森建二
Q4.肝硬変,糖尿病などのかゆみに対して抗ヒスタミン薬を用いるべきか?/落合豊子
Q5.白癬のかゆみに対して抗ヒスタミン薬を用いるべきか?/田邉 洋
第Ⅱ章 使い方
A:初診時の達人のRx
1.種類・薬理作用
Q1.抗ヒスタミン薬を用いる際に重視すべきポイントは?/窪田泰夫
Q2.小児に適した抗ヒスタミン薬は?/末廣 豊
Q3.学生・勤労者に適した抗ヒスタミン薬は?/室田浩之
Q4.高齢者に適した抗ヒスタミン薬は?/谷岡未樹
Q5.剤形(普通錠,OD錠)の使い分けは?/大久保公裕
Q6.抗ヒスタミン薬の薬物動態の特性を活かした使い分けは可能か?/森田栄伸
Q7.夜間の不眠を訴える患者に対して,抗ヒスタミン薬の「眠気」を利用することは可能か?/幸野 健
Q8.PET脳内受容体占拠率のデータは処方に際してどのように活用すべきか?/長沼史登/谷内一彦
Q9.インバース・アゴニストの特徴を活かす使い方は?/門野岳史/佐藤伸一
Q10.1日1回の薬剤と2回の薬剤の特徴を活かす使い方は?/川内秀之
Q11.長期連用で抗ヒスタミン薬の効果減弱を考慮する必要があるか?/福井裕行
Q12.子供に飲ませる剤形は?/末廣 豊
Q13.服薬指導で患者満足度を高められるか?(プラセボ効果)/幸野 健
Q14.かゆみ対策で薬物治療以外に効果的な生活指導はあるか?/石氏陽三
Q15.連続的掻破行動に対して有効な生活指導はあるか?/上田英一郎
2.蕁麻疹
Q1.病型別の抗ヒスタミン薬処方のポイントは?/森田栄伸
コラム:新患の患者さんに抗ヒスタミン薬を処方する場合,何日分処方するのか?/千貫祐子
コラム:抗ヒスタミン薬の効果を説明する際のポイントは?/千貫祐子
Q2.蕁麻疹の発現する時間が決まっている患者に対して処方する際のポイントは?/三原祥嗣
Q3.セレスタミン(R)を使用すべきケースとは?/片山一朗
Q4.抗ヒスタミン薬の服用で慢性蕁麻疹はいつ頃,どれくらいよくなるのか?/秀 道広
Q5.ストレスが加わると症状が悪化する患者に対して処方する際のポイントは?/羽白 誠
3.湿疹・皮膚炎
Q1.アトピー性皮膚炎の新患患者に最初から抗ヒスタミン薬を処方すべきか?/加藤則人
Q2.アトピー性皮膚炎に対する抗ヒスタミン薬の効果を説明する際のポイントは?/加藤則人
Q3.夜間のかゆみ症状が強く寝不足を訴える患者に対して処方する際のポイントは?/江畑俊哉
Q4.ストレスが加わると症状が悪化する患者に対して処方する際のポイントは?(成人)/羽白 誠
Q5.ストレスが加わると症状が悪化する患者に対して処方する際のポイントは?(小児)/末廣 豊
Q6.汗をかく時期になると症状が悪化する患者に対して処方する際のポイントは?/尾藤利憲
4.その他
Q1.冬場の乾燥に伴うかゆみに対する抗ヒスタミン薬の使い方のポイントは?/谷岡未樹
Q2.アレルギー性接触皮膚炎に伴うかゆみに対する抗ヒスタミン薬の使い方のポイントは?/横関博雄
Q3.虫刺症のかゆみに対する抗ヒスタミン薬の使い方のポイントは?/夏秋 優
Q4.食物アレルギーに対する抗ヒスタミン薬の使い方のポイントは?/海老澤元宏
Q5.花粉症の時期に症状が増悪する患者に対して処方する際のポイントは?/岡本美孝
B:再診時の達人のRx
1.種類・薬理作用
Q1.薬剤を変更する際の選択基準は?/森田栄伸
Q2.抗ヒスタミン薬同士の併用は意味があるのか?/長沼史登/谷内一彦
Q3.自己判断で服用を中止させないポイントは?/古川福実
2.蕁麻疹
Q1.抗ヒスタミン薬を増量する際のポイントは?/谷崎英昭
Q2.抗ヒスタミン薬とH2受容体拮抗薬との併用の意義は?/神戸直智
Q3.他の補助的治療薬との併用の意義は?/三原祥嗣
Q4.症状が消失したあと,いつまで抗ヒスタミン薬を続けるべきか?/古川福実
Q5.原因がわかっている蕁麻疹では,事前に抗ヒスタミン薬を予防投与することは有効か?/金子 栄
3.湿疹・皮膚炎
Q1.かゆみを正しく評価するためのポイントは?/石氏陽三
Q2.かゆみ症状が消失したのち,いつまで抗ヒスタミン薬を続けるべきか?/五十嵐敦之
Q3.かゆくないときも服用させるための意義と服薬指導のポイントは?/五十嵐敦之
第Ⅲ章 注意事項
1.使用上の注意
Q1.抗ヒスタミン薬を処方する際に確認しておくべきポイントは?/加藤則人
Q2.併用薬がある際に注意すべき点は?/木津純子
Q3.肝機能に異常のある患者に処方する際に注意すべき点は?/大谷道輝
Q4.腎機能に異常のある患者に処方する際に注意すべき点は?/大谷道輝
Q5.妊婦,授乳婦に処方する際に注意すべき点は?/大谷道輝
Q6.抗ヒスタミン薬の「眠気」はどのように服薬指導すればよいのか?/戸倉新樹
Q7.抗ヒスタミン薬の「自動車運転の注意」は法的にどのように考えられるのか?/水島幸子
Q8.飲み合わせなど服用方法で注意すべきことはあるか?/大谷道輝
Q9.症状に起因する眠気と抗ヒスタミン薬に起因する眠気は区別できるのか?/平良直人/金野倫子/内山 真