抗ヒスタミン薬は単なる「かゆみ止め」あるいは「くしゃみ・鼻水・風邪」の治療薬として,1950年代から長らく使用されてきた。総合感冒薬に配合された抗ヒスタミン薬は眠気を誘うことが必定で,その副作用を逆手にとって「睡眠改善薬」として市販されているほどである。1980年代に入って,ヒスタミンH1受容体の選択性向上と中枢移行の抑制をコンセプトとしていわゆる第二世代抗ヒスタミン薬が開発され,一部にはいわゆる抗アレルギー作用もあったので,当時は「抗アレルギー薬」という名称で広く処方されたが,臨床医としてその「抗アレルギー作用」を実感することは残念ながら多くはなかった。その後,脳内への移行を最低限に留めることで,眠気などの副作用を軽減した「非鎮静性抗ヒスタミン薬」が次々に開発され,その効用は臨床医にも十分体感されたので,QOLの側面からインペアード・パフォーマンスの少ない抗ヒスタミン薬が広く受容されることとなった。そのなかで,ヒスタミン自体の脳内における重要な作用や選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用などが再認識され,また新たな作用機序としてインバース・アゴニストの概念が提唱されたことにより,この古くて新しい抗ヒスタミン薬は再び臨床医の注目を浴びることになった。いまや,多彩な抗ヒスタミン薬の適応疾患の診療に当たる臨床医にとって,抗ヒスタミン薬の臨床薬理学に精通することは必須の知識となりつつある。本書はそのような動向を踏まえ,抗ヒスタミン薬の新たな地平を鳥瞰すべく編纂された,トレンディな抗ヒスタミン薬指南書である。日常診療の一助として貢献できれば編集者としてこれに勝る喜びはない。
(宮地良樹/岡本美孝/谷内一彦「序文」)
Chapter 1 抗ヒスタミン薬の種類
○1抗ヒスタミン薬の種類/中村裕義/北田光一
・1 第一世代抗ヒスタミン薬
1.エタノールアミン系
2.プロピルアミン系
3.フェノチアジン系
4.ピペラジン系
5.ピペリジン系
・2 第二世代抗ヒスタミン薬
1.ケトチフェンフマル酸塩(ザジテンRなど)
メキタジン(ゼスランRなど)
アゼラスチン塩酸塩(アゼプチンRなど)
オキサトミド(セルテクトRなど)
エメダスチンフマル酸塩(レミカットRなど)
2.エピナスチン塩酸塩(アレジオンRなど)
3.エバスチン(エバステルRなど)
4.セチリジン塩酸塩(ジルテックRなど)
5.レボカバスチン塩酸塩(リボスチンRなど)
6.フェキソフェナジン塩酸塩(アレグラR)
7.ベポタスチンベシル酸塩(タリオンR)
8.オロパタジン塩酸塩(アレロックRなど)
9.ロラタジン(クラリチンR)
10.レボセチリジン塩酸塩(ザイザルR)
Chapter 2 抗ヒスタミン薬の薬理作用
○1ヒスタミンの作用/谷内一彦)
・1 ヒスタミンの合成と分布
・2 ヒスタミン受容体の種類・分布とその構造
・3 ヒスタミン受容体を介するシグナル伝達と構成的活性
・4 ヒスタミン受容体の機能
○2選択的H1受容体拮抗作用/谷内一彦
・1 ヒスタミンH1受容体
・2 選択的H1受容体拮抗作用
・3 抗ヒスタミン薬の抗コリン作用
○3インペアード・パフォーマンス/熊谷雄治
1 抗ヒスタミン薬の薬理作用とそれに基づいた副作用
2 抗ヒスタミン薬のインペアード・パフォーマンス
3 薬剤によるインペアード・パフォーマンス発現の相違
Column抗ヒスタミン薬と労働生産性/室田浩之
○4インバース・アゴニスト/佐藤伸一
・1 アンタゴニストとしての抗ヒスタミン薬
・2 インバース・アゴニストの概念
・3 インバース・アゴニストとしての抗ヒスタミン薬
・4 抗ヒスタミン薬による多彩な薬理作用
・5 ヒスタミンH1受容体の持続的自然活性の臨床的意義
Column抗ヒスタミン薬が学業に及ぼす影響/幸野 健
○5抗アレルギー作用/戸倉新樹
・1 従来一般的に言われてきた抗アレルギー作用
・2 抗アレルギー作用がかかわる皮膚炎の概説
・3 接触皮膚炎抑制作用
・4 ケラチノサイトのケモカイン産生抑制および接着分子発現抑制
・5 抗ヒスタミン薬の多岐にわたる作用の機序
Chapter 3 抗ヒスタミン薬の適応疾患
○1アレルギー性鼻炎(通年性)/黒野祐一
・1 抗ヒスタミン薬の作用点
・2 抗ヒスタミン薬の使い分け
・3 通年性アレルギー性鼻炎に対する処方
処方の実際
○2花粉症/岡本美孝)
・1 花粉症の病態
・2 花粉症の症状
・3 花粉症の診断
・4 花粉症の治療
処方の実際
○3アレルギー性鼻炎以外の上気道炎/増山敬祐
・1 アレルギー性鼻副鼻腔炎
・2 急性鼻副鼻腔炎
・3 感 冒
・4 好酸球性鼻副鼻腔炎
処方の実際
○4アトピー性皮膚炎(成人)/江崎仁一/竹内 聡/古江増隆
・1 アトピー性皮膚炎の掻痒
・2 アトピー性皮膚炎に対する抗ヒスタミン薬の有効性・安全性に関するエビデンス
1.フェキソフェナジン塩酸塩
2.オロパタジン塩酸塩
3.ロラタジン
4.エピナスチン塩酸塩
5.セチリジン塩酸塩
6.ケトチフェンフマル酸塩
7.ヒドロキシジン塩酸塩
8.クロルフェニラミンマレイン酸塩
・3 抗ヒスタミン薬の選択において考慮すべき点
処方の実際
○5アトピー性皮膚炎(小児)/星岡 明/河野陽一
・1 定義・症状・診断
・2 病態生理
・3 皮膚所見
・4 検査所見
・5 発症・悪化因子
・6 基本的治療
・7 小児におけるかゆみと掻破のコントロール
処方の実際
○6蕁麻疹/秀 道広
・1 蕁麻疹の病態
・2 病 型
・3 検 査
・4 診 断
・5 治 療
処方の実際
○7皮膚掻痒症/中川秀己)
・1 皮膚掻痒症の定義と概念
1.老人性皮膚掻痒症
2.かゆみを伴う内科疾患
3.治 療
処方の実際
○8接触皮膚炎/戸倉新樹)
・1 接触皮膚炎の原因
1.金 属
2.化学物質
3.切削油・機械油
4.植 物
5.酸・アルカリなど刺激性物質
6.医薬品
・2 アレルギー性接触皮膚炎のメカニズム
1.感作初期での樹状細胞と角化細胞の共同作用
2.角化細胞の抗原に対する反応
3.樹状細胞の成熟・遊走とT細胞感作
4.樹状細胞の二面性
5.惹起反応:エフェクターT細胞のサブセット
6.アレルギー性接触皮膚炎とケモカイン
7.アレルギー性接触皮膚炎と接着分子
処方の実際
○9その他の湿疹・皮膚炎/中村晃一郎
・1 その他の「湿疹・皮膚炎」
1.貨幣状湿疹
2.自家感作性皮膚炎
3.手湿疹・主婦湿疹
4.うっ滞性皮膚炎
5.乾皮症・皮脂欠乏性皮膚炎
・2 その他の湿疹・皮膚炎(貨幣状湿疹・自家感作性皮膚炎・手湿疹・うっ滞性皮膚炎・乾皮症・皮脂欠乏性皮膚炎)における抗ヒスタミン薬の使い方 143
処方の実際
○10喘息(成人)/田下浩之/大田 健
・1 抗ヒスタミン薬の成人喘息に対する効果
・2 One airway, one disease
処方の実際
○11喘息(小児)/正田哲雄/大矢幸弘
・1 抗ヒスタミン薬とは
・2 気管支喘息発症の予防と抗ヒスタミン薬
・3 「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」と抗ヒスタミン薬
・4 気管支喘息・アレルギー性鼻炎と抗ヒスタミン薬
処方の実際
○12アレルギー性結膜炎/福島敦樹
・1 抗アレルギー点眼薬の分類
・2 かゆみに対する即効性
・3 初期療法
・4 ステロイド点眼薬と副作用
処方の実際
○13食物アレルギー/宇都宮朋宏/海老澤元宏
・1 食物アレルギーの臨床型と抗ヒスタミン薬
1.食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
2.即時型
3.特殊型
・2 負荷試験と抗ヒスタミン薬
1.抗ヒスタミン薬の事前内服が負荷試験結果に与える影響
2.症状出現時における抗ヒスタミン薬
・3 経口免疫療法(OIT)における抗ヒスタミン薬
処方の実際
Chapter 4 ガイドラインにおける抗ヒスタミン薬の位置づけ
○1鼻アレルギー診療ガイドライン/大久保公裕
・1 ガイドラインの指針
・2 臨床エビデンス
1.フィールドにおける無作為化比較試験
2.抗原誘発による抗ヒスタミン薬の臨床薬理試験
・3 今後の抗ヒスタミン薬のエビデンス確立
1.エンドポイントの設定
2.プラセボとの比較
3.有効性による用量設定
4.海外試験とのハーモナイズ
5.小児用剤の開発
○2アトピー性皮膚炎診療ガイドライン/片山一朗
・1 抗ヒスタミン薬の分類と最近の薬剤
・2 アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインと抗ヒスタミン薬
・3 第二世代の抗ヒスタミン薬の副作用と使用上の注意
○3蕁麻疹診療ガイドライン/秀 道広
・1 ガイドラインにおける薬物治療の考え方
・2 特発性の蕁麻疹の治療における抗ヒスタミン薬の位置づけ
1.効果判定のタイミング
2.内服期間(予防的内服)
・3 皮疹を誘発できる蕁麻疹に対する抗ヒスタミン薬の位置づけ
1.アナフィラキシーショックの危険性を伴う場合
2.物理性蕁麻疹
3.その他の誘発可能な蕁麻疹
・4 血管性浮腫における抗ヒスタミン薬の位置づけ
・5 妊婦,授乳婦への対応
○4接触皮膚炎診療ガイドライン/横関博雄
・1 接触皮膚炎の治療アルゴリズムと抗ヒスタミン薬の位置づけ
○5喘息予防・管理ガイドライン/一ノ瀬正和
・1 気管支喘息の病態理解の変遷
・2 喘息予防・管理ガイドラインについて
・3 喘息予防・管理ガイドラインによる喘息治療
・4 喘息予防・管理ガイドラインにおける抗ヒスタミン薬の位置づけ
○6小児気管支喘息治療・管理ガイドライン/末廣 豊
・1 ガイドラインにおける抗ヒスタミン薬の位置づけ
○7アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン/内尾英一
・1 ガイドラインにおけるアレルギー性結膜疾患の治療方針
・2 ガイドラインにおける抗ヒスタミン薬の位置づけ
1.点眼薬
2.内服薬
○3ガイドラインにおける疾患別治療法と抗ヒスタミン薬
1.季節性アレルギー性結膜炎(seasonal allergic conjunctivitis ; SAC)
2.通年性アレルギー性結膜炎(perennial allergic conjunctivitis ; PAC)
3.アトピー性角結膜炎(atopic keratoconjunctivitis ; AKC)
4.春季カタル(vernal keratoconjunctivitis ; VKC)
5.巨大乳頭結膜炎(giant papillary conjunctivitis ; GPC)
○4抗ヒスタミン点眼薬の種類と特徴
Chapter 5 Question & Answer
○1抗ヒスタミン薬の併用の是非について教えてください/谷内一彦
○2蕁麻疹で抗ヒスタミン薬が効かない場合,薬を変えるべきでしょうか,変更せずに増量すべきでしょうか/宮地良樹
○3抗ヒスタミン薬を用いた花粉症の初期療法について教えてください/後藤 穣
○4蕁麻疹における抗ヒスタミン薬投与終了時期はどのように判断すればよいですか/古川福実
○5風邪薬など他の薬を使用している患者さんに抗ヒスタミン薬を処方してもよいですか/田邉 昇
○6てんかんの既往歴がある患者さんに抗ヒスタミン薬を処方するときの注意点を教えてください/新島新一
Column抗ヒスタミン薬が自動車運転に及ぼす影響/田代 学
○7非鎮静性抗ヒスタミン薬のメリットを教えてください/鍋島俊隆
Column抗ヒスタミン薬と航空医学/三浦靖彦
○8アトピー性皮膚炎に抗ヒスタミン薬が効くというエビデンスはありますか/江藤隆史
○9抗ヒスタミン薬の効果に差はありますか/幸野 健
・1 眠気の強い抗ヒスタミン薬のほうが強いのか?
・2 第二世代のほうが第一世代より強いのか?
・3 第二世代の抗ヒスタミン薬間に有効性の差はあるか?
・4 どうして明確な差を認めにくいのか?
・5 総 括 245
○10気管支喘息を合併したアレルギー性鼻炎の患者さんへの治療はどのようにすればよいでしょうか/田中明彦/足立 満
○11抗ヒスタミン薬の剤形の違いと服用時期について教えてください/大谷道輝
Chapter 6 抗ヒスタミン薬の使用上の注意
○1妊娠時・授乳時/佐藤孝道
・1 妊娠時・授乳時の薬剤の児への影響
1.受精から2週間目(妊娠3週6日)頃まで
2.受精2週間後(妊娠4週0日)から妊娠4カ月末頃まで
3.妊娠5カ月(16週0日)から分娩まで
4.授乳中に投与された薬剤の影響
・2 添付文書の読み方
・3 抗ヒスタミン薬の使い方
○2小 児/小林 隆/望月博之
・1 小児の急性疾患と抗ヒスタミン薬
・2 小児の慢性疾患と抗ヒスタミン薬
・3 小児と抗ヒスタミン薬
1.抗ヒスタミン薬使用上の注意点
2.薬剤形状とコンプライアンス
○3高齢者(緑内障, 前立腺肥大を含む)/杉浦宗敏/内野克喜
・1 高齢者への投与
・2 高齢者における体内動態
・3 高齢者への投与と抗ヒスタミン薬の鎮静性
・4 緑内障患者,前立腺肥大症患者への投与
○4薬物相互作用/中澤一純
・1 抗ヒスタミン薬とは
・2 抗ヒスタミン薬の薬物間相互作用
・3 抗ヒスタミン薬と嗜好品との相互作用
○5合併症のときの注意事項/大谷道輝
・1 禁 忌
・2 慎重投与