複雑で整理の難しいリンパ系腫瘍を勉強するためには,臨床医と病理医が同じ土俵で議論することが必要と考え,症例を通して議論する場をもってはどうかと九州の血液病理医と血液専門医に提案しましたところ,賛同を得ることができました。・・・具体的には典型例,診断困難あるいは興味のある例をもち寄り,臨床側が臨床情報を提示し,病理側が組織・細胞診断を行います。さらに検索された細胞表面形質,染色体,遺伝子検査結果を提示し,指導的な立場で活躍している病理医,血液内科医と,若手の医師をも巻き込んで議論します。その中から新しい疾患概念,ひいては検査・治療法の提案ができるかもしれないことにも期待を込めて,1998年6月27日に第1回の井戸端会議が開始されました。
このたび第30回の節目の会議を開催するにあたり,記念講演として名古屋私立大学の上田龍三教授にATLL細胞に高発現するCCR4に関する基礎的な研究からCCR4抗体薬の臨床応用までをお話しいただきました。また,活動状況を本としてまとめてはどうかとの提案があり,「症例検討を通して学ぶ悪性リンパ腫診療の実際―リンフォーマ井戸端会議から学んだこと―」というタイトルで記念書籍を出版することにいたしました。その内容でありますが,まず菊池昌宏先生に「悪性リンパ腫の歴史的展望―リンパ腫分類の変遷を含めて」と題して,めまぐるしく変わったリンパ系腫瘍の考え方とその分類について解説いただきます。そのあと,今まで井戸端会議で講演をいただいた先生方に,リンパ腫の実地診療に役立つと考えられる項目につき,わかりやすい解説をお願いし,さらに今まで提示いただいた貴重な症例の代表的なものを,臨床医による症例提示,病理側からの解説というかたちでまとめていただきました。
今後,最初に掲げた目的を実現するために年に数回,本会を開催していきますが,新たな目標として,(1)日本やアジアに多いまたは稀少なリンパ系腫瘍についての勉強と研究(ATLL,NK細胞リンパ腫),(2)Lacalからnationalに,さらにnationalから internationalの会になるように,アジア,欧米の研究者との交流をすすめ,基礎から臨床までリンパ系腫瘍を通して議論する中で,国際的に通用する日本の若手研究者の育成と,外国の研究者も参加する多施設共同の研究ができる基礎をつくっていきたいと考えています。
(田村和夫「Lymphoma Forum/リンフォーマ井戸端会議の歴史と今後」より)
第1部 概要編
Lymphoma Forum/リンフォーマ井戸端会議の歴史と今後
悪性リンパ腫の歴史的展望―リンパ腫分類の変遷を含めて
症例一覧ならびにその解説
第2部 解説編
リンパ系細胞と組織の機能
WHO分類の概説
リンパ腫診断に使うフローサイトメトリーの基礎知識
染色体診断学―「染色体検査報告書」解説
癌臨床研究における生存曲線の見方
臨床医に必要な悪性リンパ腫の遺伝子異常の基礎知識
悪性リンパ腫の診断においてFDG-PET/CTがもたらしたもの
ATL最近の話題と治療―移植治療や未来の治療を含めて
ATL―ゲノム異常の多様性と病態
リンパ腫と移植治療
第3部 症例編
Precursor lymphoid malignanciesの理解を
B細胞性小型リンパ球腫瘍の診断のコツとその治療
Burkittリンパ腫とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の鑑別方法とその治療
EBV関連リンパ腫をどう理解するか
Intravascular lymphoma(IVL)の診断と治療
末梢性T細胞リンパ腫の診断と治療
Histocytic tumorとは
Castleman病その診断と治療
Indolent lymphomaからの形質転換について