『その癌種を早期に診断することで,その癌種死亡を減らすことができる場合,その癌種の早期診断・治療は有用である』,これが癌の早期発見・早期治療の是非を考えるうえでの大原則である。私は乳腺・甲状腺を専門とした外科医であるが,乳癌検診にも長く携わってきた。乳癌検診においてもその早期診断を問題視する論調が最近多くみられるようになっている。乳癌は現在わが国の女性が最も罹患する癌であり,その死亡はまだ年々増加しており,乳癌検診における過剰診断問題は賛否が分かれるところである。一方,甲状腺癌はどうであろうか。甲状腺癌は乳癌に比しその死亡数ははるかに低い。したがって甲状腺癌検診を行い早期発見し癌死を減少させるということは成り立たず,積極的な甲状腺癌検診を推奨することは誰しも賛成しないであろう。

本企画は問題点をクローズアップすることを目的としており,テーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論であり,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。

・成り立つという立場から ─疫学的見地からみた考察─/武部晃司
成り立たないという立場から/矢野由希子 ほか
両論文に対するコメント/伊藤康弘