右左シャント疾患による奇異性塞栓機序を疑う場合,理論的には静脈血栓を抑えるための抗凝固療法のほうが理に適っているが,卵円孔開存(PFO)を有する潜因性脳梗塞を対象とした多くの臨床試験では「抗凝固療法は抗血小板療法よりも若干有効性が高い傾向はあるが,有意差は認めない」という結論が導き出されることが多い。これには,①臨床試験の観察期間内での脳梗塞発症イベント数が少ないため有意差が認められない,②右左シャント疾患以外の潜因性脳梗塞が含まれている可能性,などが影響していると考えられる。若年者でも起こりえるPFOを介した奇異性脳塞栓症においては長期的な再発リスクを考慮して治療法を選択する必要があり,限られた観察期間を対象とする臨床試験の結果をそのまま当てはめるのではなく,時に抗凝固療法を適切に用いることも重要であると筆者は考えている。また,経皮的PFO閉鎖術の有効性を示した近年の試験においてもその有効性は抗血小板療法と比較した場合であり,抗凝固療法群と比較すると有意差は認められない。これは,抗凝固療法の有用性を間接的に示した結果であるとも解釈できる。抗血小板療法,抗凝固療法,そして経皮的PFO閉鎖術の適切な選択は,年齢とハイリスクPFOの観点を交えながらbrain heart teamで行い,患者も含めたshared decision makingを行うことが重要である。
「KEY WORDS」卵円孔開存,潜因性脳梗塞,奇異性脳塞栓症,抗血栓療法,抗血小板療法,抗凝固療法