Precision Medicineの臨床実装に向けて,国内でもクリニカルシーケンスが着実に広がっている。京都大学のOncoPrimeは,標準治療がないがん患者を対象に,米国CLIA 認証の検査機関で次世代シーケンサーを用いた複数の遺伝子の解析を行い,臨床的解釈や薬剤情報,臨床試験情報を付加したうえで患者さんに治療法を提示する。国立がん研究センターのTOP-GEARは,院内でのゲノム診断の実施可能性を検討する臨床研究として,院内に設置されたCLIA準拠のラボで独自のパネルを用いて解析している。また,産学連携スクリーニング事業であるSCRUM-Japanには,肺がんでは全国200施設以上の医療機関,消化器がんでは20施設が参加し,すでに発現頻度の低い遺伝子変異を有する肺がん・消化器がんの医師主導治験や企業治験が開始されている。これら実臨床におけるシーケンスデータや大規模なゲノムスクリーニングデータを集積することで,解析結果のキュレーションやアノテーションの基礎となる日本オリジナルのデータの構築も可能である。
しかし現時点では,遺伝子変異の臨床的有用性(clinical actionability)の評価が定まっておらず,キュレーションにどのようなデータベースを使うべきかなどの問題が残っている。また,個人情報としてのゲノム情報の取り扱い,ならびにクリニカルシーケンスにおいて,体細胞変異だけでなく,生殖細胞系(germline)バリアントがみつかった場合の倫理的な対応に関し,早急な体制づくりも求められている。