はじめに  現在の全世界におけるC型肝炎ウイルス(hapatitis C virus;HCV)慢性感染者数は約2億人と想定され,米国では一般人口の約1.8%(400万人)が感染者とされている1)。さらに特定の人口群,たとえば刑務所内の囚人群ではHCVに対する抗体の陽性率は38%,ホームレス群では44%,静脈薬物使用者群に至っては79%にものぼると想定されている2)。これら特定の人口群は米国における医療システムなどの問題から,多くの場合医療機関に受診することもなく,そのハイリスクな行動様式により患者数は増加の一途をたどるうえ,正確な感染者数の統計もほぼ不可能である。こういった背景により,これから10年の間にHCV感染に起因する非代償性肝硬変の患者数は4倍になると推定されており,それを反映した形で2009年度におけるHCV感染症に関連した医療コスト(30億ドル)は2024年には85億ドルにまで膨らむと考えられている。さらに治療に反応する遺伝子群や株にとって変わり,2011年度現在では治療抵抗性株に感染している患者数が50万人に達し,こういった株が高リスク人口群間で瞬く間に蔓延することで,米国におけるHCV感染症は日本でのそれに比べはるかに深刻な公衆衛生上の問題である。  このようなHCVのアウトブレイクはひとえにウイルスと宿主免疫反応におけるウイルス側の勝利にほかならず,HCVは急性感染症例において85%以上のケースで慢性感染を成立させる。さらにHCVゲノムが同定されてから20年以上もたつ今なお決定的な抗ウイルス薬やワクチンも合成されていない。本稿ではHCV感染症における抗ウイルス療法と密接なかかわりをもつ宿主自然免疫反応と,いかにHCVがそれを回避し,効率的な複製のライフサイクルを達成するかに焦点を当てて,最新の知見をふまえて解説する。