~第一人者に聞く~
ブレンツキシマブ ベドチンの医師主導治験:希少疾患治療への挑戦
はじめに
ブレンツキシマブ ベドチン(brentuximab vedotin:BV)の適応拡大のための医師主導治験は、希少疾患治療の重要性と医師主導治験の意義を深く認識する貴重な機会となりました。
CD30陽性皮膚T細胞性リンパ腫(CD30陽性CTCL(cutaneous T cell lymphoma))は、日本では年間50~100例程度しか発症しない非常に希少な疾患です。2019年の治験開始時、日本ではこの疾患に対する承認済みまたは開発中の医薬品は存在せず、患者さんたちには有効な治療選択肢がほとんどありませんでした。
BVは、抗CD30抗体と細胞障害活性をもつモノメチルアウリスタチンE(monomethyl auristatin E:MMAE)をリンカーで結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)です。欧米では既にCD30陽性CTCLに対する適応を取得していましたが、国内での申請予定はありませんでした。この状況を打開するため、岡山大学を中心とした6施設による多施設共同の医師主導治験が立ち上げられたという流れです。
希少疾患治療における医師主導治験の重要性
医師主導治験は、希少疾患の治療開発において重要な役割を果たしています。
希少疾患では患者数が少ないため、国内製薬企業は経済的な理由で新薬開発に消極的になる傾向があります。しかし、医師主導治験は純粋に医学的な必要性に基づいて治療法を開発できる点が特徴です。
また、希少疾患に精通した医師が少ない状況で、専門知識をもつ医師が治験を主導することで、適切な試験デザインや評価方法がより容易に設定されます。これにより、疾患の進行パターンを反映した、より精度の高い治験の実施が可能になります。
さらに、医師主導治験は、希少疾患の患者さんにとって新たな治療法にアクセスできる貴重な機会となります。この医師主導治験で集められる科学的な知見は、今後の研究開発や治療法改善にも大いに貢献する可能性があります。
このように、医師主導治験は希少疾患治療の発展において重要な役割を果たしています。その意義は新薬開発に留まらず、希少疾患医療全体の進歩に大きく貢献する可能性があると考えられます。
治験の概要と結果
本治験は2019年3月に被験者登録を開始し、2021年3月に被験者の登録を完了し、同年12月に最終観察を完了しました。2022年12月に総括報告書を完成させ、2023年11月には製造販売承認事項一部変更承認を取得しました。この約4年半の道のりは、希少疾患の治療薬開発におけるさまざまな課題と向き合う濃密な時間となりました。
治験では、日本人を対象とした再発または難治性のCD30陽性CTCL患者を2つのコホートに分けて、BVの有効性を評価しました。コホート1(n=13)はCD30陽性菌状息肉症(mycosis fungoides:MF)または原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫(primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma:pcALCL)の患者、コホート2(n=3)はその他のCD30陽性リンパ増殖性疾患の患者でした。主要評価項目である少なくとも4カ月以上持続する客観的反応(ORR(overall response rate):4)を達成した被験者の割合は、コホート1で69.2%、コホート1+2で62.5%と高い奏効率が確認されました。グレード3以上の有害事象として、末梢神経障害(23%)、発熱および好酸球増多(15%)が報告されましたが、結論として、BVは日本人の再発または難治性CD30陽性CTCL患者において、良好な有効性、忍容性、安全性プロファイルを示しました。これらの結果から、BVが日本人のCD30陽性CTCL、特にMFやpcALCL患者に対して有効な治療選択肢となる可能性が示唆されました1)。


