Research & Development
~第一人者に聞く~

抗CCR4抗体「モガムリズマブ」開発の経緯と今後の展望

上田 龍三 先生 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学 特任教授

「なぜ白血病になるのか」の疑問から研究の道へ

 私は1944年にソウル(京城府)で生まれました。終戦直後に引き揚げ、父が松山で開業したため高校まで松山で育ち、大学は名古屋大学医学部に進学しました。父自身がそうでしたが、当時のお医者さんといえば住民の相談相手。誰からも信頼され、感謝されていました。その姿をみて私もおのずと医師を目指すようになりました。

 そして初期研修中、当時まだ治療法が確立されていなかった白血病患者さんを担当し、「白血病について研究してみたい」と第一内科(第三研究室)へ入局しました。そこで白血病の化学療法や移植の限界に触れ、「そもそもなぜ白血病になるのだろう」という疑問を抱き、米国スローン・ケタリングがん研究所 Lloyd J. Old研究室の門を叩きました。1976年のことです。

 その頃のOld博士の研究室での命題は、「ヒトの免疫細胞は自分のがん細胞を認識できるか?」というものでした。そこで私は、腎がん患者さんの血清と本人の腎がん細胞および正常腎上皮細胞から樹立した培養株細胞との反応を解析して腫瘍抗原の解析を行い、腎がん特異抗原の同定に成功しました。また、1975年に英国で発表されていたモノクローナル抗体の作製手法をいち早く採用し、ヒト腎がん特異抗原の同定にも成功しています。こうした一連の研究成果から、私は「ヒトでがん免疫は成立する」ことを確信して1980年に帰国しました。


ATLの病態研究から抗CCR4抗体の開発へ

 その後、私は愛知県がんセンターに15年務め、1995年には名古屋市立大学第二内科教授に就任して、血液がんから固形がんまで幅広いがん種に対するモノクローナル抗体の作製や分子標的治療研究に従事してきました。

 1990年代後半からはCCR4(CC chemokine receptor 4)抗体を用いて成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)の病態研究に取り組み、このケモカインレセプターがATL患者さんの90%で高発現し、かつCCR4陽性ATL患者さんは予後が不良であることも発見しています。

 この頃から、ATLのトランスレーショナル・リサーチを目指して企業との共同研究もスタートさせました。企業は抗CCR4抗体の糖鎖(フコース)を除去して高力価のCCR4修飾抗体の作製に成功し、われわれはATL患者さんに残存する正常なリンパ球が、CCR4修飾抗体によって試験管内にて自身のATL細胞を死滅できることを証明しました。さらには、ヒトATL移植マウスにおける腫瘍縮小効果も証明して、“いよいよ臨床応用への道が開けてきた”と感じました。