Cutting Edge

吉備中央町における救急医療DXの取り組み

上田 浩平 先生 岡山大学学術研究院医歯薬学域地域医療DX 推進講座助教

序章

 医療技術の進展や疾患の多様化に伴い、救急体制の効率化と医療機関との連携が求められている。救急医療現場ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入が進められているが、その整備は十分ではない。特に、救急車内での患者情報の迅速な伝送は、早期治療や医療従事者の業務効率化において重要である。本稿では、岡山県加賀郡吉備中央町のDX化の具体例について考察する。

 

吉備中央町での医療DX化の取り組み

 2022年、岡山県吉備中央町は「デジタル田園健康特区」に指定され、DX 技術を活用して地域医療の課題解決に取り組んでいる。岡山大学との連携により、救急医療や母子健康情報のデジタル化、PHR(personal health record)基盤の整備を進めており、住民向けの「きびアプリ」で健康情報や生活支援サービスの一元化を行っている1)。特に救急医療では、町内に救急医療機関がないため、搬送時間が1時間以上かかることが多く、搬送中の診断や治療の遅れが課題であった。このため、救急車内での患者情報の収集と医療機関への即時共有を可能にするDX 化を進めている2)。QR コード付きの「共通診察券ID」を活用した「きび健康カルテ」により、既往歴や服薬情報、アレルギー歴などの重要な医療情報が瞬時に確認できるシステムを構築している(図1)。


救急救命士による超音波検査と遠隔システム

 吉備中央町では、救急救命士が医師の補助下で行う超音波検査の導入を推進している。超音波検査は非侵襲的で、迅速な画像診断が可能である。Focused Assessment with Sonography for Trauma(FAST)による腹腔内出血の評価は、救命救急における重要な診断ツールとして確立されている3)。しかし、日本では救急救命士が超音波検査を行うことは現行法で認められていない。海外では救急救命士が適切な教育を受けて超音波検査を実施し、医師と同等の精度で検査が行われている例も報告されている4)-8)。吉備中央町では2023年度までの実証実験を通じて、救急車内で取得した超音波画像を病院にリアルタイムで送信するシステムを導入した(図2)。このシステムにより、救急救命士は遠隔の医師から指示を受けながら超音波検査を行うことができ、専門的な診断が可能となる。特に搬送時間が長い地域では、リスク評価や治療開始までの時間短縮が期待される。