Cutting Edge

遠隔ICU(Tele-ICU)の現在と未来

元山 文菜 先生 株式会社医療デザインラボ代表取締役、株式会社リビカル代表取締役

保険収載までの経緯

 遠隔集中治療(intensive care unit:ICU)は遠隔医療の一つであり、集中治療に習熟した医療従事者が協力して重症患者に対して行う、ビデオ音声通話やコンピューターシステムなどを用いた集中治療における診療支援システムである。遠隔ICUは現場医療に代わるものではなく、医療資源の活用とプロセスの標準化を通じて現場医療を強化するよう設計されている1)

 日本のICU が直面している深刻な課題の一つが、集中治療専門医の不足である。現在、日本全国のICUベッド数は約7,200床であるが、集中治療専門医は約2,300名しかおらず人材不足が常態化している2)。同様の課題を有する米国のICUでは、2020年に集中治療専門医の22%の供給不足が発生しており、2035年には35%の供給不足が予想されている3)。これに対し、米国では現在約18%のICUが遠隔ICUを取り入れている4)

 これらの背景をうけ、日本では厚生労働省により「医師の働き方改革に関する検討会」のなかでの議論を契機に遠隔ICUの体制整備が本格的に始まった。その後、医療機関や学会と連携するなかで、令和5年度に保険収載となった(図1)。

 

遠隔ICUに期待される効果

 現在、集中治療専門医の不足が問題となっているが、遠隔ICUを導入することで、集中治療専門医が不在の施設においても、集中治療専門医や集中治療に習熟した医療従事者の協力を簡単に得ることが可能となる。このことによるさまざまな効果が期待されている。

 まず、ICU・院内死亡率とICU 滞在日数の減少である。遠隔ICUの効果として、ICU 死亡率と院内死亡率の改善が報告された5)。さらにわれわれが行ったメタ解析においても、遠隔ICUを導入した医療機関における、ICU 死亡率・院内死亡率が有意に改善され、ICU 滞在日数が短縮されることが確認された6)

次に、病床運用とベッドコントロールの効率化が挙げられる7)。遠隔ICUにより、重症度のスコアリングが行われた複数の患者を一元的に把握することで、各患者のICUや高度治療室(high care unit:HCU)での管理の必要度が可視化される。これにより、客観的なデータに基づいた適切な病床運用とベッドコントロールが可能となる。また、複数の医療機関が連携することで、集中治療専門医などの限られた医療資源の効率的な運用が可能になると考えられる。

 さらに、医師や看護師の業務軽減も挙げられる7)。遠隔地の集中治療専門医から必要なときに専門的な助言を受けることが可能となり、現場の医師や看護師の業務軽減に繋がる。ここで、実際にわれわれが遠隔ICUの導入を推進したA 病院の事例を紹介する。A 病院では、麻酔科専門医が一人しかいないため、その麻酔科医師が一人で24時間365日患者対応のためのコール当番を担当していた。遠隔ICU 導入前の一年間における夜間休日のコール件数は全時間帯で194件であった。これに対し、導入後の一年間では夜間休日のコール件数は141件と、導入前の73%まで減少した。遠隔ICU 導入一年後に、麻酔科医師とICU 看護師へインタビュー調査を行ったところ、医師からは「夜中の電話が100分の1に減った感覚だ」という感想が聞かれた。また、看護師からも「現場医師に相談しにくい内容を、遠隔ICUに相談できる」「現場の医師では判断できない患者情報を判断してもらえる」などの声が聞かれた。このように、コール件数の減少という業務の軽減に加え、集中治療専門医がフォローしてくれることによる精神的負担の軽減という効果も考えられる。