若年性特発性関節炎(JIA)は16歳未満で発症した原因不明の慢性関節炎で,わが国の小児リウマチ性疾患において,患者数が最も多い疾患である。JIAでは初期治療が遅れた場合,治療が不十分な場合,あるいは難治性病態をもつ例では,関節破壊(関節型JIA)やぶどう膜炎(小関節炎JIA),それにステロイドの副作用(全身型JIA)などが発生し,生涯にわたって患児のQOLを低下させる。その一方、2008年からJIAの治療選択肢として加わった生物学的製剤により,難治性JIAの予後は大きく改善した。しかし,小児リウマチ専門医を擁す医療機関は少なく,しかも特定の地域に偏在している現状では,これらの進歩した医療が患者家族の身近な医療機関で均等に提供される状況ではなかった。
そこで,JIAの診断や治療の標準化と均一化を図り,より専門性の高い医療を身近な医療機関で提供するために,日本リウマチ学会の小児リウマチ調査検討小委員会では,「若年性特発性関節炎初期診療の手引き 2015」を発刊した。
その後,生物学的製剤による治療はますます普及し,その結果,生物学的製剤の適応や治療の実際に関する詳細な情報を求める声が高まってきた。またこの間,疾患活動性の評価スコアや,スコア値による重症度分類が公表された。さらに「若年性特発性関節炎初期診療の手引き 2015」の利用者からは,臨床現場で使い勝手のよいコンパクトサイズで,短時間で要点を掌握できるといった,内容・サイズを凝縮した診療の手引きを求める声が寄せられていた。
このような新たな情報や要望に対応することを目的に,小児リウマチ調査検討小委員会では「若年性特発性関節炎初期診療ハンドブック 2017」を作成した。そのため,本ハンドブックは「若年性特発性関節炎初期診療の手引き 2015」の単なる改訂版ではなく,初期以降の診療プロセスをも含むなど,新しいコンセプトで作成された初版本である。
発刊にあたっては,作業を担当した編集委員諸氏,特に獅子奮迅の活躍をしていただいた岡本奈美編集委員代表に,深甚より感謝の意をささげたい。本ハンドブックが外来や病棟の片隅に常備され,JIA患者の診療に役立つことを心から願うものである。
(武井修治「序文」より)
第1章 小児の慢性関節炎の概念と分類
第2章 若年性特発性関節炎の疫学
第3章 若年性特発性関節炎の病態生理
Ⅰ 全身型若年性特発性関節炎
Ⅱ 関節型若年性特発性関節炎
A.少関節炎・多関節炎
B.乾癬性関節炎
C.付着部炎関連関節炎
第4章 若年性特発性関節炎の診断
Ⅰ 全身型若年性特発性関節炎
Ⅱ 関節型若年性特発性関節炎
A.少関節炎・多関節炎
B.乾癬性関節炎
C.付着部炎関連関節炎
D.未分類関節炎
Ⅲ 注意すべき病態の診断
第5章 若年性特発性関節炎の治療
Ⅰ 治療前の感染症スクリーニング
Ⅱ 全身型若年性特発性関節炎に対する治療
Ⅲ 関節型若年性特発性関節炎に対する治療
Ⅳ 生物学的製剤の使用について
第6章 若年性特発性関節炎の管理
Ⅰ 外来における運動・生活上の注意点,指導
Ⅱ 検査・他科診療の間隔と治療反応性の判定
Ⅲ 福祉・医療制度
Ⅳ 予防接種・感染症予防
Ⅴ 治療中の感染症接触・罹患時の対応
Ⅵ 予後
Ⅶ 症例登録システム
Ⅷ 患者会・家族会
Ⅸ 小児リウマチ性疾患診療に詳しい医師へのコンサルト・コンタクト
Ⅹ 海外の状況
第7章 注意すべき病態に対する治療・管理
Ⅰ 結核感染の管理指針
Ⅱ B型肝炎ウイルス(HBV)感染症の管理指針
Ⅲ マクロファージ活性化症候群(MAS)の治療・管理指針
Ⅳ ぶどう膜炎の治療・管理指針