本書は，血管疾患の教科書ではない。日本全国で行っているわたしの講演「プライマリー・ケアのための血管疾患のはなし」を元に，読みやすく書き下ろしたものである。対象は血管疾患に今まであまり興味のなかった先生方や，明日から末梢血管疾患の診療に参加したい先生方である。

血管内科医がほとんど存在しないわが国では，血管外科医が血管内科医の仕事を当然の如く行っている。この構造は，泌尿器科，耳鼻咽喉科，整形外科，眼科という領域の先生方が外科領域の医師として扱われていながら，実は手術にならない多くの内科的疾患を扱っている構造に類似している。しかし，泌尿器科や耳鼻咽喉科，整形外科，眼科の先生はたくさんいらっしゃるが，血管外科医の数が実は少ないことが問題である。

末梢血管疾患の1つである閉塞性動脈硬化症は，少なく見積もって50万人，多く見積もると数百万人が罹患していると推測され，すべての患者を血管外科医が初療から診察することは不可能である。そこで，血管疾患を専門としない先生方や，プライマリー・ケアを行っている先生方に血管疾患の診療に参加していただきたい。本書を読んでいただくと，明日から血管疾患の診療に従事していただけるようになる。私の臨床研究や経験をもとにした血管疾患の理解方法，説明方法，処方方法などが書かれている。自分の経験のないものは述べていない。

また，患者は多数の診療科や病院を受診した末に最後の砦として血管外科を受診することが多い。そして，血管外科的な疾患でないことも多々ある。そのような場合，以前はそれ以上の診療はお断りしていたが，ほかに患者の訴えに応える診療科や病院がないために，漢方診療を希望すれば適宜行っている。新見正則は，帝京大学医学部では唯一の日本東洋医学会の指導医・専門医である。口コミで患者が漢方診療を求めて受診することも多くなり，血管外科疾患に対する漢方診療も本書の中で適宜示してある。

講演の臨場感をそのまま文章にしたために，この本では医療用医薬品の商品名をそのまま記載している。また，回りくどい言い方などもみられるが，講演会に参加している気分で読んでいただければ幸いである。また，外科的治療についてはごく簡単に述べるに留める。

（新見正則「本書の目的」より）