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タイプ別肺高血圧症診療のポイント

ガイドラインにみる肺疾患に伴う肺高血圧症診療のポイント

日下圭守尾嘉晃

Pulmonary Hypertension Update Vol.5 No.1, 50-57, 2019

肺疾患に伴う肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は,全経過中に発症しえる合併症で,右心不全を惹起し運動耐容性の障害と生存期間の短縮をもたらすことより,臨床的に重要な病態である。海外のガイドラインに準拠するとPH臨床分類の第3群に組み込まれ,その予後は,PHを主徴とした他の類縁疾患と比較して予後不良である1)。肺疾患に伴うPHの治療は,現時点で確立されたエビデンスはないが,治療指針としてまず基礎疾患である肺疾患の治療が必須とされる。低酸素血症は,低酸素性肺血管攣縮(hypoxic pulmonary vasoconstriction:HPV)と肺血管床のリモデリング現象を惹起してPHにおける肺循環障害を悪化させるため,労作時または睡眠時に低酸素血症をきたす準呼吸不全を含めた症例には,長期酸素療法(long-term oxygen therapy:LTOT)が推奨される。選択的肺血管拡張薬は,血管拡張作用でHPVを抑制することによって換気不良な区域の血流量を増加し,ガス交換を悪化させる可能性があるが,肺疾患に伴うPHにおいていくつかの臨床研究から有益性が示唆された。観察研究の後ろ向き調査では,選択的肺血管拡張薬投与群は非投与群と比べて生存率が有意に向上した2)3)。しかしながら,ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)の検証では,選択的肺血管拡張薬による予後の改善が示唆されていない4)-8)。2018年3月,フランスのニースで開催された第6回PHワールドシンポジウム(2018年ニース会議)で,PHの診断基準の改訂が提案された。2018年ニース会議で提案された肺疾患に伴うPHに対する治療指針は,昨今の海外のガイドラインの推奨を踏襲して9),選択的肺血管拡張薬の投与を含めた個別化治療の目的でPHと慢性肺疾患の両専門家がいるセンターへ紹介することと提示された10)。日本肺高血圧・肺循環学会では,GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) systemの手順で,肺疾患に伴うPHに対する選択的肺血管拡張薬の推奨を検証して,『肺疾患に伴う肺高血圧症診療ガイドライン』を作成した11)。診療ガイドラインの検証から,肺疾患に伴うPHは指定難病に認定されていないが,その治療指針の策定には臨床研究の議論の継続が必要と思われる。本稿では,長期に治療管理しえた間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)に伴うPHの経過12)を振り返って,ガイドラインにみる診療のポイントについて考察してみたい。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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