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海外文献紹介

基礎

大郷恵子

Pulmonary Hypertension Update Vol.3 No.1, 64-65, 2017

肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は肺動脈圧の上昇による右心不全からしばしば死に至る進行性の疾患で,肺小動脈の筋性化の増加と閉塞が病理学的特徴である。遺伝性PAH(heritable PAH:HPAH)の70%程度, 特発性PAH(idiopathic PAH:IPAH)の20%程度に骨形成蛋白質(BMP)Ⅱ型受容体(BMPR-Ⅱ)におけるヘテロ接合型の生殖細胞突然変異が認められ,ほとんどはハプロ不全をきたす。重要なことに,遺伝性でないPAHにおいても肺血管のBMPR-Ⅱレベルの減少が動物でもヒトでもみられる。一方BMPR-Ⅱ変異の浸透率は20~30% と低く病気の発症・進行には他因子の関与が示唆され,なかでも炎症はそのトリガーとなりモデル動物でPAHの進行を促進する。PAH患者では,tumour necrosis factor-α(TNF-α)を含む炎症性サイトカインの血中濃度が高い例のほうが予後不良である(Soon E, et al. Circulation. 2010;122:920-7)。抗TNF-αの免疫療法によりモノクロタリン(MCT)などの動物モデルでPAHが予防・低減できたとの報告もある。しかし,炎症とBMPR-Ⅱの機能不全が協同して疾患を起こすメカニズムは不明である。そこで著者らは,TNF-αがBMPR-Ⅱの発現を高度に減弱させて,代わりのⅡ型受容体であるACTR-ⅡA/ALK系への切り換えが起こることが病態に関与するとの仮説を立て検証した。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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