誌上ディベート
甲状腺乳頭癌に対する外側区域郭清は推奨できるか?
推奨できないという立場から
Thyroid Cancer Explore Vol.3 No.2, 50-53, 2017
このディベートセッションでは外側区域の“予防”郭清を推奨できない立場で論を進める。予防郭清とは術前の触診,超音波,CTなどによる画像検査および穿刺吸引細胞診により転移を認めない領域のリンパ節郭清と定義する。これらの検査で明らかに転移を認めている症例に対する“治療的”郭清の適応については議論の余地はないと考える。
甲状腺癌のリンパ領域は大きく3つ[気管周囲(中央領域とも呼ばれる),外側頸部(内深頸・副神経・鎖骨上領域とも呼ばれる),上縦隔]に分類される。
気管周囲郭清については,前向きの無作為化比較試験により再発率などの減少を証明しようとすると,計算上5,840例という,非現実的な症例数および長期の経過観察が必要とされる1)。それゆえ,現在までに単一施設の少数例の前向き無作為化比較試験が報告されているのみである2)。この報告では,長期予後の代わりに,アブレーションの成功率および,比較的短期間(5年間)の再発率を指標に予防的気管周囲リンパ節郭清に対する非郭清の非劣性が示された。しかし,非郭清の長期予後は検証されておらず,実臨床では再手術の際の瘢痕内におけるリンパ節郭清の困難さ,高い頻度の有害事象を考慮して,わが国においてはこの領域の予防郭清を行うことについてのコンセンサスが得られていると思われる。上縦隔の予防郭清については,明らかに侵襲が過大になることおよび,後ろ向き検討により臨床的意義は認めないこと3)により実臨床で行われることはない。外側区域は術前にリンパ節転移を疑われていない場合(cN0)でも,実際に郭清をすると,病理学的に転移(pN1b)をしばしば認める4)。この事実によりcN0症例に対する外側区域予防郭清術について議論が多い。外側区域予防郭清術については現在までに局所コントロール,生命予後を改善するかどうかを検討した前向き比較試験は行われておらず,このことが,尽きない議論の原因となっている。現実的には各施設,各医師の方針により,適応基準が異なっている。
論点としては外側区域予防郭清術の生命予後改善に対する影響,局所コントロールに対する影響,有害事象に対する影響に主に焦点を当てて論ずる。
本企画は問題点をクローズアップすることを目的としており,テーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論であり,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。
・推奨できるという立場から/内野眞也
・推奨できないという立場から/菊森豊根
・両論文に対するコメント/杉谷巌
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。