誌上ディベート
甲状腺乳頭癌に対する外側区域郭清は推奨できるか?
推奨できるという立場から
Thyroid Cancer Explore Vol.3 No.2, 44-49, 2017
甲状腺乳頭癌では,術前術中にリンパ節転移がないと臨床的に判断していても,実際にリンパ節郭清を行ってよく調べてみると,高頻度にリンパ節転移が存在することが1970年に明らかとなっていた1)2)。一方,微小なリンパ節転移は必ずしも致命的な結果に結びつかないことが多いことも知られている。甲状腺乳頭癌の生命予後および再発予後は他の悪性腫瘍に比べて極めて良好であり,小さなリンパ節転移の存在そのものは直接的に生命予後やリンパ節再発に影響を与えないとも考えられている3)。このようなリンパ節転移のほとんどは増殖せずにそのままの状態でとどまっているか,自然退縮するか,あるいは非常にゆっくりと成長するためヒトの寿命が先に尽きてしまうかのいずれかである。一部のリンパ節転移はこの流れとは明らかに異なり,後に臨床的にリンパ節再発という形で発現し,外科治療の対象となり,生命予後に影響を及ぼす。初回手術時に大きな転移で郭清が必要になる場合があるが,このようなリンパ節転移も元は微小な転移であったはずである。どの微小な転移が将来致死的な癌に発育増殖していくのか,逆に増殖せずにドーマントの状態で留まっていくのか,あるいは自然退縮していくのかを見定めることができれば,どのような症例に予防的郭清を行うべきかが明らかとなる4)5)。術前術中にリンパ節転移のない症例で,腫瘍径が11~30mmの低リスク乳頭癌の場合においても,外側区域郭清追加を推奨するという考えもある6)。また男性,56歳以上,腫瘍径が31mm以上,腫瘍の肉眼的腺外浸潤のいずれかがある場合は郭清を勧めるという考えもある7)。ここでは生命予後あるいは再発リスクから考えて,症例を選択した上で外側区域郭清を推奨する立場から論じる。
本企画は問題点をクローズアップすることを目的としており,テーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論であり,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。
・推奨できるという立場から/内野眞也
・推奨できないという立場から/菊森豊根
・両論文に対するコメント/杉谷巌
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。