Cancer biology and new seeds
非小細胞肺がん(NSCLC)における薬剤耐性獲得メカニズムの予測
がん分子標的治療 Vol.16 No.3, 53-58, 2018
近年,個人のゲノム情報に基づいた精密医療が急速に進歩しつつある。分子標的治療においては,患者のゲノム情報を収集して解析することで,薬剤応答性の違いをもたらす遺伝子タイプを明らかにすることが重要である。しかしながら,薬剤耐性の問題に代表されるように,がんは多種多様かつダイナミックな変異を生み出すため,個々の患者で耐性が起こるたびにゲノム解析を繰り返さなければならない事態に陥りかねない。われわれは,この状況に対処する方法として,計算機シミュレーションによって遺伝子変異に伴う種々の分子標的薬の応答性を予測する新たなアプローチの開発に取り組んでいる。近年の計算機のハードウェア・ソフトウェアの急速な進歩によって,薬剤応答性の主要な決定因子である蛋白質と薬剤の結合親和性を高速かつ高精度に予測することが可能になってきた。本稿では,非小細胞肺がん(NSCLC)の薬剤耐性に焦点を当て,がん遺伝子産物と薬剤の精密な結合シミュレーションによって,耐性獲得の分子メカニズムおよび薬剤耐性の克服にアプローチした研究事例を紹介する。
「KEY WORDS」ゲノム医療,非小細胞肺がん,ALK融合遺伝子,RET融合遺伝子,上皮成長因子受容体,分子シミュレーション,結合親和性
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