Cancer biology and new seeds
神経成長因子による胃腫瘍形成の促進
がん分子標的治療 Vol.16 No.2, 58-62, 2018
ヒトの神経細胞は脳だけでなく全身に分布しており,なかでも消化管には1億個以上のさまざまな神経細胞が存在し,消化管の蠕動やホルモン分泌を調節している。そうした働きのほかに,以前から神経ストレスが免疫異常などを介してがんやさまざまな疾患の原因になる可能性が指摘されていた。筆者らは以前の報告で,マウス胃がんモデルにおいて迷走神経を切除すると腫瘍が縮小することから,神経シグナルが胃がんを促進している可能性を提唱した。また,本稿で取り上げる新たな報告では,より詳細な観察を行った結果,胃がんが進行する過程でがん細胞が「神経成長因子(NGF)」と呼ばれるホルモンを産生し,これに反応した神経細胞ががん組織に誘導され,そこからのアセチルコリン(ACh)分泌がさらに胃がんを成長させていくことを明らかにした。NGF受容体阻害薬によりこの腫瘍・神経相互作用を阻害することで,腫瘍の増殖を抑制できた。また,Tuft cellと呼ばれる特殊な上皮細胞もAChを分泌し,細胞増殖や腫瘍形成を促進することがわかった。AChは胃上皮幹細胞中のChrm3を介してWnt経路やYAP経路を活性化して細胞増殖を促進するほか,がん細胞からのNGF分泌を誘導してさらなる神経細胞の誘導に寄与していた。このNGF-ACh-Chrm3-YAP経路はヒト胃がん組織中でも亢進しており,新規治療標的となりうる可能性が示唆された。
「KEY WORDS」NGF,胃がん,アセチルコリン,YAP,Chrm3
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