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特集 女性と乳腺疾患

2 遺伝性乳がん

植木有紗平沢晃青木大輔

WHITE Vol.6 No.1, 15-22, 2018

わが国において女性が罹患する悪性腫瘍として最も多いのは乳がんであり,20年来第1位となっている1).日本人の2人に1人はがんに罹患する時代となり,家系内に乳がん罹患者がいることは少なくない.ただし乳がんのうち10%前後は家族性に発症すると考えられている2)
一般に「家族性腫瘍」および「遺伝性腫瘍」という言葉は,同じように用いられることが多いが,家族集積性のある腫瘍が「家族性腫瘍」であり,遺伝学的検査によって原因遺伝子の生殖細胞系列変異が認められた場合には「遺伝性腫瘍」と記載することが多いようである.「遺伝性腫瘍」の中には,家族集積性を有さないものもあるため,特定のがんの家族内集積だけでなく,若年発症や多重多発癌(同時性・異時性の重複癌や両側発症)などの特徴をもつ場合には注意が必要である.このような腫瘍のうち遺伝的要因が寄与していると考えられる遺伝性腫瘍の家系では,がん抑制遺伝子やDNA修復関連遺伝子などに生殖細胞系列の遺伝子変異が存在している.遺伝性腫瘍の多くは常染色体優性遺伝形式をとり,次世代に男女関係なく2分の1の確率で遺伝子変異を引き継ぐ可能性がある.ある遺伝子型をもつ時にその形質が発現する確率を浸透率と呼ぶ.遺伝性腫瘍では浸透率が100%ではないことが多く,全例が発症するわけではない.遺伝性腫瘍が疑われる場合,必要に応じて遺伝カウンセリングを行い,遺伝学的検査のメリット・デメリットなどを説明した上で,希望があれば遺伝学的検査を行う.
これまでに多くの乳がん家族集積性が報告され,その中から遺伝性乳がんに関連するさまざまな原因遺伝子が同定されてきた.Melchorらによれば,全乳がん患者のうち,5~7%は家族集積性を持つ家族性乳がんであり,その原因としてさまざまな原因遺伝子の関与があることが報告された2).中でも遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome:HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1/2遺伝子の関連は25%を占め,第1位となっている.本稿では遺伝性乳がんにかかわる疾患として,臨床的に重要視されつつあるHBOCを中心に,臨床で遭遇し得る遺伝性乳がんについて述べる.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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