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欧州糖尿病学会(EASD)

第49回欧州糖尿病学会(EASD)年次学術集会(Barcelona, Spain)

23-27,September,2013

曽根博仁

Diabetes Horizons ―Practice and Progress― Vol.2 No.4, 29-31, 2013

2013年9月23日~27日,スペイン・バルセロナにおいて,第49回欧州糖尿病学会年次学術集会が開かれた。会期中は好天にも恵まれ,会場は活気に溢れていたが,日本を含む東アジア各国からの若い研究者の参加が多いことが印象的であった。

 食事療法については,「栄養疫学」のシンポジウムにおいて,ヨーロッパ8ヵ国を結び,標準化された詳細な生活習慣調査と糖尿病発症との関係を調査しているEPIC-InterAct研究の,これまでのまとめがなされていた。このグループからは,たとえば酪農製品,肉,魚,野菜や果物あるいはビタミンなどの摂取と糖尿病発症との関連について,非常に多くの発表がなされてきたが,それらの背景と結果についてわかりやすくまとめられていた。
 さらに保存血清から測定された37種類の脂肪酸と糖尿病発症リスクとの関連の中間報告がなされていたが,血中のC16の脂肪酸の濃度は一標準偏差増加あたり約1.3倍の糖尿病発症リスクの有意な増加に結び付いたのに対して,C15,C17は逆に,それぞれ約0.8倍,約0.7倍と有意な減少となっており,非常に興味深い結果であった。
 この報告にあるように,ヨーロッパでは臨床研究が大規模かつシステマティックに国際化されているが,アジア地域においてもこのように,国を越えた協力的な取り組みが必要であると考えさせられた。私共のJDCSグループから,食塩摂取と各合併症との関連を報告させていただき,食塩摂取量で四分位に分けた場合,有意な心血管合併症の増加傾向が認められた。
 運動療法については,「Insulin signaling and myokines;インスリンシグナル伝達とマイオカイン」のセッションを興味深く聴講した。Rab-GTPaseを活性化する蛋白であるTBC1D1とTBC1D4は,AKTおよびAMPKを介してGLUT4をトランスロケーションさせることが示されていたが,これらのダブルノックアウトマウスが作製された。その結果TBC1D1とTBC1D4の両者が,インスリンまたはAMPKを活性化させるAICARによる筋細胞のグルコース摂取に必須であることが示された。また,興味深いことに白筋,赤筋ではAMPKを介するインスリン刺激に対するグルコース摂取が異なることも,これらの経路と関係していることが示された。
 同セッションでは,筋におけるインスリン抵抗性の新しい経路も提唱されていた。これは,リポジェニック酵素の転写因子であるSREBP-1cがIRS-1プロモーター領域に結合し,IRS-1転写レベルを低下させることでインスリン抵抗性を増悪させるというものであった。また,エピジェネティクスを介して運動がヒトの脂肪組織にどのように影響を与えているかについての興味深い演題があった。これは23人の男性に6ヵ月間運動をさせ,その前後で脂肪組織を採取し,各種遺伝子のメチル化を調査したものである。その結果,肥満に関わる遺伝子18種類の24ヵ所のCpGサイトにおいて遺伝子のメチル化の違いが見られ,そのうちの2つの遺伝子においては実際に転写レベルの低下が生じていることが示された。同様に21種の2型糖尿病の候補遺伝子においても,運動の前後で45ヵ所のCpGサイトのメチル化の程度が異なっていることがわかった。特に注目すべきはKCNQ1,TCF7L2といった人種を超えて糖尿病発症に非常に強く関わる遺伝子にもこのメチル化の差が認められていたことである。長期間の習慣的運動が,脂肪細胞ゲノムにおけるメチル化を通じて,肥満や糖尿病の関連遺伝子の転写レベルに変化を与えることが示された非常に興味深い研究であった。

 薬物療法については,昨今,インクレチン関連薬が心血管疾患にどのような影響を及ぼすかについての議論に注目が集まっているが,それを反映するかのように,心血管アウトカムに関する臨床試験のセッションにおいて,2つの大規模臨床試験(CAROLINA試験とLEADER試験)のデザインが発表された。これらは,いずれもインクレチン関連薬の心血管疾患に対する安全性の証明を主な目的としているものであった。CAROLINA試験では,リナグリプチン5mgとグリメピリド1~4mgの効果を約6,000人の患者を対象とし,LEADER試験は約9,000人の患者を対象に,リラグルチドとプラセボの効果を比較するものである。これらの試験が実施され,どのような結果が得られるか興味深い。
 同じく注目が集まる,インクレチン関連薬の膵炎・膵がんの発症リスクとの関連についてもメタアナリシスがなされていたが,現時点では,有意な関連を示唆する結果は得られなかった。しかし発表者らは,対象者数や研究の数が十分でないため,このメタアナリシスの結果を持って,インクレチン関連療法の膵炎・膵がんの発症リスクの関連を完全に否定するには至らず,前向きの大規模臨床試験を実施すべきであると,慎重な姿勢を見せた。
 診断に関しては,腎症発症の新規マーカー探索のシンポジウムで各種新規マーカーと現在使われている尿中微量アルブミン値とが比較された。しかし現時点においては,微量アルブミンの診断能を上回ると思われるマーカーは見出せておらず,果たして微量アルブミン以外のマーカーは必要なのか,などという議論も含めて活発な意見交換がなされていた。同時に,このような新規のマーカーを検討するためにはCox比例ハザードモデル,ROC曲線,NRIなど,各種の異なった臨床統計指標を併用して,微量アルブミンに対する有用性をしっかりと証明していくことが必要であるという意見が出されていた。
 糖尿病合併症の病態解明や予防治療に大きな貢献をした研究者に与えられるCamiilo Golgi賞は,本年は,現在進行中のAddition試験の中心的研究者であるLauritzen先生(デンマーク)が受賞されていた。
 Claude Bernard賞はLaakso先生(フィンランド)が受賞された。受賞講演の中で,家系の分析,個別の遺伝子の異常,から始まり,大規模臨床研究と基礎研究の両方の融合が重要であることを,これまでのキャリアを振り返りながら示されていた。このLaakso先生の講演も含め,糖尿病学分野も他分野同様,生活習慣指導に対する反応なども含めた臨床所見の大規模データと,ゲノミクス,プロテオミクス,メタボロミクス,エピゲノミクスなどを含むシステム生物学との融合,すなわち遺伝子と生活習慣病との関連を調査する研究が必要であり,今後ますます盛んになってくることを,今回のEASDに参加して改めて感じた。
 本会は,一昨年(2011年)のリスボンと並び,南ヨーロッパの国での開催であったが,バルセロナは都会的で,のんびりしたリスボンとはまた異なった雰囲気の都市であった。ガウディのSagrada Familiaといった歴史的な建築物もさることながら,EASDの名物となっている,学会参加者に対する「博物館の夜間解放」はCatalunya歴史博物館などで実施され,多くの日本人の先生方も訪れて中世のロマネスク・ゴシック美術を堪能されていた。

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