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Special Article 総説

各国の診療体制―運動器慢性疼痛医療の実情―

細川豊史

Locomotive Pain Frontier Vol.1 No.1, 18-22, 2012

運動器慢性疼痛医療の実情は,各国の健康保険制度,診療体制の相違から,一義的に論じられるものではないが,どこもまだまだ満足のいくものではない。活動,コスト,両面において社会的不利益をもたらす要因であり,一般的に慢性疼痛を診る整形外科医,内科医,神経内科医などの慢性疼痛一般,治療薬に関する知識,理解を深めるとともに,Multidisciplinaryな痛み治療専門施設の整備と痛み専門医の研修制度の確立とその養成が急務であると結論する。

はじめに

 運動器慢性疼痛は,変形性関節症,変形性腰・頚椎症,骨粗鬆症などを基礎疾患に多くの場合,加齢とともに増加すると考えられている。世界でも有数の高齢者社会である本邦においては,現在も多くの患者の存在があるとともに,今後もさらなる増加が当然予想される。Locomotive Syndromeは,「骨,関節,筋肉などの運動器の働きが衰え,要介護状態や要介護になる危険性が高い状態」と邦訳される。これに伴うLocomotive Painは患者にとってもっとも辛いものであるが同時に,ADL(activities of daily living),QOL(quality of life)の多大な低下をきたすものでもある。本邦同様,高齢化は諸外国が抱える共通の現代,近未来の問題であり,このLocomotive Syndrome,そして運動器慢性疼痛は活動,コスト,両面においてもっとも社会に不利益をもたらす要因である1ことからも,“Locomotive Pain Management”は,諸外国でも国益という観点からも早急に克服すべき重要な課題となっている。このことから,欧米諸国においては,疫学的情報としてもっとも基本的な情報となる一般集団(住民)の有病率に関する調査報告が,痛みをきたすさまざまな疾患や慢性疼痛に関して,かなり以前より集積されており1-3,最近でも多くの調査結果が報告されている4-6。本邦では,服部ら7の2004年の調査から慢性疼痛の有病率は13.4%とされていた。しかし,2009年1月に新たな全国規模の調査8がなされ,その有病率は22.9%とその増加が報告され,本邦でも早急な診療体制の整備の必要性が表出してきた。本稿では,諸外国の診療体制と運動器慢性疼痛医療の実情について,本邦との相違を交え総説的に論じることとする。

本邦における医療の特徴

 周知のごとく,本邦では1958年に国民皆健康保険制度が導入され,実質的には1961年以降から現在まで50年以上にわたりこの制度が堅持されている(図1)。

保険費の負担率については何度かの変革はあったものの,健康保険でカバーされる医療行為,治療薬剤は他の先進国に対して広範であり,一部の富裕層だけでなく一般国民が享受できる医療レベルはヒラリー・クリントンも絶賛したように,他国に比しずいぶん高度なものである。このため,本邦における運動器慢性疼痛医療の診療体制の実情についてはほぼ一律的に評価し得る。詳細は次稿をご参照いただきたいが,その特徴は,① 多くの神経ブロックや脊髄硬膜外電気刺激療法などのinterventionalな治療が健康保険で施行できる。② 鎮痛剤の多くも保険内で使用可能であるが,いくつかの抗うつ薬や抗てんかん薬,一部のオピオイドなど,諸外国で使用可能な薬剤が慢性疼痛治療に保険収載されていない。③ 保険外の治療法や薬剤の使用にあたって混合診療が認められていない。④ 支払いが出来高制であるため,時に薬剤,手術などが過剰に処方,施行されることがある。⑤ この2年間に海外で使用可能であった鎮痛剤のいくつかが保険収載となった。それに伴い医療者や社会の関心も高くなり慢性疼痛の1つである神経障害性疼痛の薬物療法ガイドライン9が2011年に上梓され,神経障害性疼痛薬物療法アルゴリズムなども示されている(図2)9が,その内容は欧州(図3)その他の諸外国と大差はない。

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