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Selected Papers(循環器領域)

エプレレノンは収縮不全を有する比較的軽症の心不全患者において有効である

絹川弘一郎

Fluid Management Renaissance Vol.1 No.2, 78-79, 2011

Eplerenone in patients with systolic heart failure and mild symptoms.
Zannad F, McMurray JJ, Krum H, et al ; EMPHASIS-HF Study Group.
N Engl J Med 364 : 11-21, 2011

要 約

 アルドステロンはレニン-アンジオテンシン系の最終産物であり,慢性心不全の病態に深く関わっていることは周知の事実である。これまで抗アルドステロン薬はスピロノラクトンが広く使用されてきており,慢性心不全に対する有効性も確立している(RALES試験)。ただし,このRALES試験はNYHA分類Ⅲ/Ⅳ度の比較的重症な心不全患者を対象としたものであり,日ごろ接する機会の多い軽症患者は除外されていた。そのため,各種ガイドラインにおいてスピロノラクトンはNYHA分類Ⅲ度以上の患者に適応とされてきた。また,スピロノラクトンはエストロゲン様作用を有し,女性化乳房という男性にとって忍容性を損なう合併症が少なからず生じることも有名である。この副作用を軽減する目的で開発されたのが,エプレレノンという選択的抗アルドステロン薬である。エプレレノンの心保護作用については,これまで急性心筋梗塞後の心機能低下症例(駆出率(ejection fraction;EF)<40%)においてEPHESUS試験が組まれ,全死亡や心血管イベントを抑制することがわかっていた。しかし,エプレレノンの非虚血性の心不全症例に対するエビデンスはまだなかった。このような背景をもとに計画されたEMPHASIS-HF試験は,RALES試験の対象とならなかった比較的軽症であるNYHA分類Ⅱ度の心不全症例におけるエプレレノンの効果を検討したものである。
 総数2,937名の患者がプラセボ群とエプレレノン群に割り付けられた。エントリーの基準は55歳以上,NYHA分類Ⅱ度,EF<30%(または30<EF<35%のときQRS幅>130m秒)の収縮不全を有する患者であり,使用できない理由がなければACE阻害薬とβ遮断薬による標準的治療を十分量受けていることが条件であった。さらに,心血管イベントによる入院後6ヵ月以内であるか,または脳性Na利尿ペプチド(BNP)>250pg/mLかNT-proBNP>500pg/mL(男性),>750pg/mL(女性)のいずれかを満たすものとした。除外基準は,NYHA分類Ⅲ/Ⅳ度の心不全,血清K値>5mmol/L,推定糸球体濾過率(eGFR)<30mL/分/1.73m2,K保持性利尿薬の使用,などであった。試験薬は1日25mgから開始し,4週間後に1日50mgに増量した。腎機能低下例(30<eGFR<49mL/分/1.73m2)では25mg隔日投与から25mg連日投与に増量した。血清K値が5.5mmol/Lを越えた場合は,試験薬を減量ないし中止とした。併用薬はACE阻害薬またはARBが93~94%使用されており,β遮断薬も87%程度使用されていた。この条件においてエプレレノン群は一次エンドポイントである心血管死と心不全入院について37%のリスク低減をもたらしたため,規定により試験は中央値21ヵ月の観察期間において早期終了となった。二次エンドポイントである全死亡,全入院,心不全入院においても,すべて有意差をもってエプレレノンの有効性が示された。高K血症による入院に有意差はなかったが,高K血症自体はエプレレノン群で8%であり,プラセボ群の3.7%を大きく上回った。一方,低K血症はエプレレノン群で有意に少なかった。女性化乳房は,エプレレノン群とプラセボ群で同等の発生頻度であった。年齢層・人種・性別・血圧・腎機能・背景疾患・併用薬・EFなどの各サブグループにおける検討では,ほとんどすべてのサブグループでエプレレノンの有効性が発揮されており,ACE阻害薬やβ遮断薬を何らかの理由で使用できない患者においてのみ明らかな有効性がないという結果であった。

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