<< 一覧に戻る

座談会(Round Table Discussion)

慢性疼痛に対する薬物療法の新たな展開

紺野慎一山口重樹井関雅子

Practice of Pain Management Vol.2 No.2, 6-15, 2011

はじめに
井関(司会) 本日は,福島県立医科大学整形外科の紺野慎一先生,獨協医科大学麻酔科の山口重樹先生にお越しいただき,「慢性疼痛に対する薬物療法の新たな展開」をテーマにお話をお伺いいたします.
 慢性疼痛に苦しむ患者さんは,長期にわたる持続的な身体的痛みを抱えています.現在の医学では,どうしても身体の痛みを100%とり除くことはできないため,痛みの受容と共存を図りながら,身体に安全な範囲で治療を提供するのが,基本的な慢性疼痛治療のスタンスかと思います.そして,できるだけ適切な医療を提供して患者さんの身体的な苦痛をとることが,やはり医師の務めだと考えています.
 最近ではオピオイドも普及しはじめ,また末梢性神経障害性疼痛の治療薬としてプレガバリンが新たに登場し,慢性疼痛に対する治療の選択肢として,薬物療法はますます重要な位置を占めると思います.しかし,あらゆる痛みに対しそれらの薬物がすべて有効というわけではなく,適切な選択と使用が重要です.そこで,本日は薬物療法について,お二人の先生のお話を伺いながら,理解を深めていきたいと思います.

出席者(写真右から順)
井関 雅子 Iseki Masako(司会)
順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座先任准教授

山口 重樹 Yamaguchi Shigeki
獨協医科大学麻酔科学教室准教授

紺野 慎一 Konno Shinichi
福島県立医科大学医学部整形外科教授

IASP による慢性疼痛の分類

井関 現在,国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain;IASP)では「痛み」を,「侵害受容性疼痛」,「神経障害性疼痛」の大きく2つに分類しています.侵害受容性疼痛は,外傷や手術,炎症などが原因となって侵害受容器を刺激するような病態や状況が発生し,それが神経に伝わって痛いと感じる痛みです.典型的なものは炎症性の痛みで,急性痛のほぼ100%は,侵害受容性疼痛に分類されると思います.
 一方,神経がどこかで損傷や断裂,圧迫や変性を受けるなどして,それにより神経機能が変化することで起こる痛みが神経障害性疼痛です.痛みの原因が末梢神経であっても,脊髄や中枢まで感作されて,すべての神経機能に異常がおき,侵害受容性疼痛で起こるような疼痛を伝えるパターンとは異なる痛みをもっているのが特徴です.神経障害性疼痛の典型的なものには多くの疾患があり,ペインクリニック領域でいえば,帯状疱疹後の神経痛や術後痛などがあります.運動器疾患においては,神経損傷や,圧迫がかなり強く,痺れや知覚低下が進んだ痛みも神経障害性疼痛のひとつに入るでしょう.
 さらに,最近クローズアップされてきたのが,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が混合した「混合性疼痛」という概念です.神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛には連続性があり,場合によっては両者の疼痛治療が必要になります.また,心理的な問題が関与している場合も含め,これらの痛みが混在している場合もあります.

運動器疾患の慢性疼痛治療~整形外科領域におけるアプローチ~

傾聴と共感から生まれる信頼関係

井関 紺野先生はながらく脊椎を中心にして整形外科領域の痛み,運動器の疼痛に対して総合的なアプローチをされていらっしゃいますが,運動器の疼痛,特に慢性の痛みに対してどのように取り組まれていますか.
紺野 まずは慢性疼痛に悩む患者さんと医師の信頼関係をしっかり築くことが基本だと考えています.信頼関係がないと,よい治療も十分な効果が得られません.信頼関係を築くには,患者さんの痛みをまず全面的に受け入れ,共感する医師側の姿勢がポイントになると思います.
 もうひとつは,治療のゴール設定です.痛みをゼロにすることを目標とするのではなく,痛みをもつ患者さんのQOLをどのように上げていくかを考慮し,一人ひとりの患者さんに合わせて,患者さんとともにゴール設定を行うことが重要だと思います.
井関 私も慢性の痛みを訴える患者さんに対しては,共存と受容について最初にお話しさせていただいて,その後に治療を開始します.すると,スムーズにいくことが多いですね.では,実際の治療についてはいかがですか.
紺野 慢性疼痛に対する薬物治療としては,痛みに対してはまずNSAIDsを処方し,それから運動療法や物理療法,神経ブロック療法など,さまざまな保存療法を組み合わせていきます.
井関 整形外科の分野では,「混合性疼痛」の概念や治療法の選択は,どのように考えられているのでしょうか.
紺野 これまで整形外科では,「混合性疼痛」という概念とは無縁でした.そもそも,「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」という概念自体がなかったわけです.整形外科領域の疾患名は,これまではX線診断がそのまま疾患名になっていました.たとえば,変形性関節症,あるいは変形性脊椎症などが挙げられますが,これらはX線の診断名であり,病態とは関係ありません.

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る