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日本臨床麻酔学会

日本臨床麻酔学会第30回大会

並木昭義加藤実

Practice of Pain Management Vol.2 No.1, 59-69, 2011

 本日は「プライマリー・ケアにおける神経障害性疼痛に対する薬物療法」をテーマに,加藤実先生(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野准教授)にご講演いただきます.
 加藤先生は,1983年に日本大学を卒業,麻酔科に入局されました.1994年,講師に就任ののち,1996年にトロントへ留学されています.その後,2000年に麻酔科助教授,2007年に麻酔科准教授の職に就かれ,1993年には日本麻酔科学会総会にて山村記念賞を受賞されています.
 ペインクリニック分野の第一人者であり,最先端で活躍されている加藤先生に,本日は貴重なお話をうかがえるかと思います.

プライマリー・ケアにおける疼痛治療の可能性

座長 並木昭義  演者 加藤 実

 近年,神経障害性疼痛治療において薬物治療の普及に力が注がれるようになり,多くのエビデンスがそろいはじめ,ペインクリニックの外来でも神経ブロックと同様,薬物を駆使した治療が行われるようになった.それにともない,欧米各国ではガイドラインが確立しつつある.また,がん対策基本法の成立により鎮痛補助薬が普及したこと,帯状疱疹後や糖尿病性の神経障害性疼痛の有病率の高さや術後神経障害性疼痛の頻度の高さが広く認識されはじめたことなどにより,疼痛の専門科以外でも神経障害性疼痛治療の認知が高まってきている.そんななか,日本でも神経障害性疼痛に対する薬剤保険適応が進み,最近では新たにプレガバリンの適応が認可され,話題となっている.
 以上のように,神経障害性疼痛の薬物治療をとりまく環境は整ってきており,ペインクリニック医師のみならず,一般プライマリー・ケアの医師が,神経障害性疼痛に対して初期診療で介入し,薬物療法を行うことは現実的な目標になりつつある.
 しかしながら,プライマリー・ケアにおいて神経障害性疼痛治療は,見過ごされがちなのが現状である.
その原因としては,

  ①神経障害性疼痛の概念が十分に浸透していない

  ②神経障害性疼痛の診断が困難である

  ③薬物治療についての知識が十分ではなく,NSAIDs以外の薬剤(鎮痛補助薬)の使用経験が少ない

  ④薬物治療についてのガイドラインがなかった

  ⑤これまで保険適応外の薬剤が多かったため,臨床現場にいまだなじみがない

などが挙げられる.
 薬物治療を早期のうちに適切に導入すれば,慢性疼痛に悩む患者をより早く痛みから解放し,痛みの遷延および重症化を防ぐ可能性は十分にある.プライマリー・ケアの医師が神経障害性疼痛治療に介入可能な環境を整えることは,疼痛治療の発展において重要な課題であるといえる.
 そこで,現状を改善するためにペインクリニックの医師からかかりつけ医,主治医への啓発活動が重要となる.プライマリー・ケアの医師にまずは,神経障害性疼痛の概念,痛みの評価・診断,神経障害性疼痛のメカニズムといった基礎知識から,さらには病態に合わせた薬物選択と適切な使用法,副作用の留意点,痛みの専門医に紹介するタイミングといった実臨床に役立つ情報まで知ってもらう必要がある.今回の講演では,神経障害性疼痛の薬物療法について,私の経験を交えながらプライマリー・ケアの現場に役立つような情報を伝えていきたい.

神経障害性疼痛の疫学~有病率について

 神経障害性疼痛はまれな疾患ではないことが最近の報告で明らかになってきた.痛みは絶対的な数値で評価ができないため,正確な有病率を調査するのは困難ではあるが,ヨーロッパの報告では神経障害性疼痛の有病率が7~8%,ドイツの報告では,遷延している腰痛患者の37%が神経障害性疼痛であるという指摘がされている.頻度の高い神経障害性疼痛としては外傷後,手術後の神経障害,帯状疱疹後神経痛が挙げられ,鼠径ヘルニア手術後の10%が,日常生活に支障をきたす神経障害性疼痛が残ったことが報告されている.がん疼痛では,神経障害性疼痛が全体の約40%を占め,そのほかにも,乳がんでは20~30%,開胸後30~40%,脳卒中8%,多発性硬化症28%,脊髄損傷67%と,多くの神経障害性疼痛をきたす疾患が報告されている.神経障害性疼痛がいかに治療のニーズが高い疾患であるかがわかる.

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