<< 一覧に戻る

FORUM

第13回アジアオセアニアてんかん学会議(AOEC)の報告と,コロナ禍での国際会議のあり方

池田昭夫田中達也前原健寿

Epilepsy Vol.16 No.1, 47-54, 2022

はじめに
アジアオセアニアてんかん学会議(Asian&Oceanian Epilepsy Congress:AOEC)は,国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)のアジア・オセアニア地域の支部をまとめるアジア・オセアニア地域委員会(旧 CAOA,現 ILAE-Asia Oceania:ILAE-AOと呼称)が中心となって2年ごとに開催されており,過去には,第4回が日本(軽井沢,山内俊雄会長)で開催された1)
前回,第12回AOECは,インドネシアのバリ島で2018年6月28日~7月1日の4日間での開催であった2).その次となる第13回AOECは,当初,2020年10月8日~11日まで,福岡で開催される予定であったが,2020年当初からのコロナ禍のため,2021年6月10日~13日に延期され,完全web開催の形式で行われた(図1).

1 会議の概要

科学組織委員会(Scientific Organizing Committee:SOC)では,ILAEサイドから筆者の池田昭夫(日本)とIBE(International Bureau for Epilepsy)サイドからDing Ding教授(中国)が共同議長を務め,そのメンバーは表1に示すとおりである.共同筆者の田中達也(日本)が名誉委員に任命された.共同筆者である前原健寿(日本)は,Fitri Octavianua教授(インドネシア)とともにプログラム委員会委員長を務めた.誰もが参加できるように,登録費は通常のコロナ禍前の現地でのface to face meetingよりも安く設定された.さらに,低中所得国からの参加者は,研修生,学生と同様に大幅に割引された登録費が設定され,ILAEまたはIBE支部のメンバーには類似の措置があった.また,一般演題の応募者のうち,従前と同様に,ジュニアメンバーでかつ低中所得国からの応募には,参加補助費が提供された.企画セッション以外の一般登録参加者は975名の登録済み参加者となり,前回の第12回大会(インドネシア,バリ島)に匹敵する参加者数となった(図24).

表1 運営組織

プログラムでは,従前の企画に加えて,新たな多くのセッションが開催された.てんかんや神経学の局所的な問題に取り組むclinical spotlight sessions(臨床スポットライトセッション),technical workshops(技術ワークショップ),crosstalk sessions(クロストークセッション)などは,新しい視点で,世界的に著名なspeakerと主要なオピニオンリーダーから構成され,ほぼ100の企画で広範な領域の話題が提供された.webカンファランスでの通信トラブルを回避するために,すべてのプレゼンテーションは事前録画された.171名の講演者のご協力に心から感謝している.一部の講演者には,複数の講演を提供し,セッションの座長およびモデレーターとともに,それぞれの企画セッションのあとに,会期中にテーマに応じてのroundtable discussionがライブストリーミング形式で開催された.ここでは10名程度の少人数の登録参加型の自由な議論がなされた.図5に4日間の会議におけるアナウンスのweb表示を示す.第13回AOECサイトからすべてのセッションの概要とspeakerを検索することが現在も可能である4)

図5 4日間のプログラムの概観

会議1日目は,“Newly diagnosed epilepsy”(新たに診断されたてんかん),“Epilepsy and inflammation”(てんかんと炎症),“Practical use of EEG”(脳波の実践的使用)の3つのASEPA(Asian Epilepsy Academy)教育コース(半日)で始まり,約400名が参加した.その後,正式な会議の開催は,the scope of care for the Asian Oceanian region(アジア・オセアニア地域のケアの範囲)に関する議長シンポジウムで始まった.Samuel Wiebe教授(カナダ,ILAE理事長)“It’s a small world:why are ILAE and WHO resolutions important to patients?”(小さな世界:なぜILAEとWHOの決議が患者にとって重要か?),Martin Brodie教授(英国,IBE 理事長)“Drugs as the top priority for epilepsy care”(てんかんケアの最優先事項としての薬物治療),Byung-In Lee教授(韓国,ILAE-AO 前代表)“Epilepsy management in the Asian Oceanian region”(アジア・オセアニア地域のてんかんケア),田中達也〔日本,ILAE 前副理事長,JES(Japan Epilepsy Society)元理事長〕“The past, current and future of epilepsy surgery in the Asian Oceanian region”(アジア・オセアニア地域におけるてんかん手術の過去,現在,そして未来)が講演された.
Seino memorial lectureでは,“Professional development;mastery, leadership and professionalism”(専門能力開発;習熟,リーダーシップ,プロフェッショナリズム)に関して,Shih Hui Lim教授(シンガポール)による講演があった注3
注3:故 清野昌一先生の,アジア・オセアニア地域におけるてんかん学の発展のために尽くされた多大なる貢献を讃えて,Seino memorial lectureが,2008年の第7回 AOECから制定された.2008年は福山幸夫教授,2010年はSimon Shorvon教授,2012年はJean Gotman教授,2014年はSamuel Berkovic教授,2016年は池田昭夫,2018年Chon Tin Tan教授と続いている.

その後もさまざまなセッションに続き,薬剤難治性てんかんに関する小児科のセッションとして企画された “Newer treatment options for drug resistant epilepsy in childhood:encouraging developments with a promising future”(小児期の薬剤耐性てんかんの新しい治療オプション:有望な将来を伴う開発の促進)には,多くのweb聴衆の参加があった.初日の歓迎式では,Asian Oceanian Outstanding Achievement Epilepsy Awardsに,JESから推薦された眞柳佳昭先生が受賞された.
会議の2日目と3日目は,2日間で75名の登録済み参加者全員がセッションに参加するのと並行して,最大4つのセッションが並列でなされた.Clinical spotlight session(臨床スポットライトセッション)としての “Why am I still having seizures? (management of the patient with continuing seizures)”(なぜ,私はまだ発作を起こすのですか?)には,多くのweb聴衆の参加があった.Debate session(討論会)やASEPA didactic lectures(ASEPA 教育講義)も好評であった.
最終日の4日目,“Clinical features and semiology of different seizure types”(異なる発作型の臨床的特徴と発作症状)では多くのweb聴衆の参加があった.ほかにもmain sessionの “Can we reduce the treatment gap in epilepsy surgery?”(てんかん手術の治療ギャップを減らすことはできるか?)や,最新動向に関する “State of the art epilepsy surgery”(最先端のてんかん手術)などのてんかん外科に関する企画にも多数の参加がみられた.
会議4日目の日曜日には,てんかんを患う人々とその介護者を対象としたIBE主導のEpilepsy & Society Symposium(てんかんと社会のシンポジウム)が,毎回同様に開催され,medical staffと患者サイドとの共同で,現在と今後を国際的に議論する貴重な場となった.なかでもJESが2016年より毎年開催してきたてんかんをめぐるアート展もアジア・オセアニアを対象に拡大して企画された(図6).

図6 同時開催されたArt and epilepsy exhibitionの概要

アジア・オセアニア地域の最新の研究を強調する332の一般演題が会議に提出され,38演題が口頭発表に選ばれ,残りは関連企業の展示セッションにweb上で隣接して,コメントを投稿して後日著者からの返答がもらえるという形式の相互関連が担保されたポスターギャラリーに展示された.
2004年にタイ,バンコクで開催された第5回 AOECから開始されたTadokoro Prizeは,アジア・オセアニア地域におけるてんかん学の活性化のために初期予算に大きく貢献されたJESの田所靖男先生(名古屋)を讃えて創設されたもので,臨床科学と基礎科学の両方で高い評価を得た口頭発表とポスター発表を表彰してきた.今回,日本からは林梢医師が受賞した.多くのポスターツアーがvirtual形式で開催された.ILAE-AO research task forceが主催するILAE-AO mentor-mentee programは,引き続きこの地域の若い研究者が,領域全体でmentorとなるリーダーから助言指導を受けるシステム相互作用を促進することを支援している.
以上のまとめの詳細は文献55)から英語版で閲覧可能である.

2 JESに関するセッション

100近くの企画セッション(臨床・教育・研究の多彩な内容,国際的expertの講演)のうち,JES会員およびその他日本人の講師のinvited speakerは30名以上と,大変多くの先生方のご協力があり,成功の要因となった.JESの会員による企画セッションの内容は,文献66)に日本語で別途記載されており,参照されたい.
一般演題では330演題の登録で通常のAOECと同じ程度の演題数,そのうちJESからは100演題近くの登録があり,関係諸氏のご協力に感謝している.
また,ILAEがかかわる国際会議に関する規定のなかで,ホスト国の年次学術集会は独立して開催することができないという規定が2013年から適用された.そのため,当初の福岡での第14回 AOECが開催予定とされた2020年はJESの年次学術集会は開催できないことになった.JES内ですでに決定していた学術集会の大会長予定の先生には,年度の変更に関して大きなご負担をおかけしたにもかかわらず,ご快諾いただきあらためて感謝したい.
最終的に2020年がコロナ禍のため,AOECとJESの両者が開催されないこととなったが,2020年開催時計画では,当初からJES年次集会の代わりに,少なくともJESメンバー向けに日本語のセッションを企画し,以下のとおり開催した.さらに,その4カ月後は,JESの第54回年次学術集会が名古屋で開催されるということで,両者の重複の回避などの調整に,関係者の皆さまの多大なご尽力があったことに感謝している.
表26)に示すように,JES sessionとして計2時間の日本語での教育企画を,基礎的内容と最新情報とweb視聴者のニーズに応じて企画した.前半1時間のてんかんケアの基礎情報は,2021年1月に開催されたJES主催の完全webカンファランス形式による,てんかん研修講習会でも録画ビデオが使用され教育的効果が高い内容であった.また,2020年に開催されなかった迷走神経刺激療法(VNS)講習会も前原委員長の尽力で,AOECの登録とはリンクしないで開催することができた.

表2 日本語でのJESセッション

3 今後の学会のあり方

今回のvirtual platform(動的な仮想プラットホーム)は,対面での会議の体験を再現するために作成された.いくつかの技術的問題はあったものの,プラットホームへの反応は圧倒数が肯定的であった.特に若い世代では,経済的制約や仕事の休みのために会議に参加するのが難しいと感じることが少なくない.Webカンファランスでは,講義を視聴して,会議中の質問,会議後の自由な意見交換などはどうしても限られてくるが,新たな試みとして,それぞれの企画セッションのあと,会期中にテーマに応じてのroundtable discussionがライブストリーミング形式で開催された.10名程度の少人数の登録参加型とし,自由な議論がなされた.
2022年4月現在,コロナ禍は徐々に落ち着きつつあり,社会活動も屋内外の大きなイベントも,従前のように密にならないように厳しい入場制限が徐々に取り除かれつつある.一方,社会一般のイベントとは異なり,医療関係者は勤務病院や施設でのクラスターの発生源など感染源にならないことに対する社会的使命は大きく,医療関係者の学術集会がコロナ禍前の開催形式に戻るのは,より慎重な対応が肝要である.
コロナ禍で,webカンファランスの利点が認識され,移動の手間がなく,audiovisualは現地会場よりも良好な状態での学会参加が可能となった反面,現地参加での自由闊達な議論と意見交換ができない点も明らかである.今後は現地参加の学会と,webカンファランスの両者を効率よく利用できる状況がしばらく続くことが予想される.
なお,次回第35回の国際てんかん会議(35th International Epilepsy Congress:IEC)は,2023年にアイルランドのダブリンで開催予定となっており,第14回 AOECについては,今回(第13回)が1年延期でのスケジュールであったことから,2022年に開催されることとなった.コロナ禍の収束予想は,ILAE-AOの各国の感染状況の落ち着き具合とその程度にばらつきが懸念された.これらをすべて考慮して,再度webカンファランスでの開催が2022年11月12日~16日と決定された.内容は,従前のface to faceのようにきわめて多彩ではなくとも,むしろeducationに重きを置きながらも,若手がscientific contentを国際学会での発表の機会を十分に提供できるようにという趣旨を十分に考慮して,現在プログラムの最終調整がなされていて,詳細は文献77)を参照されたい.現在,一般演題募集が始まり,現時点で締め切りが5月27日までとなっている.多くの方のご参加を期待している.

4 まとめ

コロナ禍の影響から,第13回 AOECは1年遅れて,大きく様変わりしwebカンファランス形式で開催された.今回の経験はJESにとっても参加者の皆さまにとっても今後のあらゆる面での貴重な経験となったと思われる.JESは,現在会員数が3,100名を超えて,米国てんかん学会(American Epilepsy Society:AES)の4,000名弱に次ぐ世界で2番目に大きなILAEのchapterとなった.今後もこのような貴重な機会を生かして,国内外の関係者が広くてんかんに関する多岐にわたる内容の議論と協調を促進し,てんかんを有する人々にとって大きく資する機会となることが期待される.

COI
※本原稿に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体
京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座は,産学協同講座であり,エーザイ株式会社からの共同研究経費,ユーシービージャパン株式会社,日本光電工業株式会社,大塚製薬株式会社からの寄付の補助を受けている.

References

1) 50周年記念誌編集委員会(編).日本てんかん学会の歴史─日本てんかん学会50周年を記念して.制作:診断と治療社,発行:日本てんかん学会,2016.
2) 池田昭夫,人見健文,松橋眞生,他.アジアオセアニアてんかん学会議(AOEC)第12回 AOEC報告と,第13回(2020年)の日本での開催に向けて.Epilepsy.2019;13:41-4.
3) 13th Asian & Oceanian Epilepsy Congress.
https://www.epilepsycongress.org/aoec/
4) 13th Asian & Oceanian Epilepsy Congress. Interactive Planner.
https://www.professionalabstracts.com/aoec2020/iplanner/#/grid
5) Ikeda A, Ding D. 13th Asian & Oceanian Epilepsy Congress SOC Chairs Report.
https://www.ilae.org/files/dmfile/SOC-Chairs-Report-2021-08-23.pdf
6) 日本てんかん学会ホームぺージ.第13回 AOEC JES session(日本語)などお知らせ.
https://square.umin.ac.jp/jes/images/JESsession20210528.pdf
7) ILAEホームぺージ.14th Asian & Oceanian Epilepsy Congress.
https://www.ilae.org/congresses/14th-asian-and-oceanian-epilepsy-congress

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る