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芸術と涙

第1回 オペラ

井上幸次

Frontiers in Dry Eye Vol.15 No.2, 1-4, 2020

この新連載「芸術と涙」の第1回にご指名いただき大変光栄なのだが,さて,いざオペラについて書くとなると,普通の学術論文よりもかえって難しい。オペラを一度も観たことがない人はたくさんおられるだろうが,そういう人にもわかってもらえるようにオペラについて語るのは,ゾウを見たことがない人にゾウについて語るようなものである。そもそも,オペラほど偏見に晒されている芸術ジャンルは他にない。いわく「高尚で難しくて,途中で寝てしまう」,いわく「太った女の人が病気で死にかけている人を演じるバカバカしい音楽劇」,いわく「通常ありえないストーリーを普通でない声を張り上げて歌い,強引に乗り切る変な演劇」などなど…。スター・ウォーズのような活劇中心でサイエンスのないSFをスペース・オペラというが,あれはオペラの非現実性を借りてできた蔑称である。確かにオペラでは,恋敵を処刑したら,実は弟だったという話(トロヴァトーレ)とか,3つの謎に答えることができたら結婚するが,できなければ首を切る話(トゥーランドット)とか,恋人の貞節を試すために,変装してお互いに相手の恋人を誘惑してものにしてしまう話(コジ・ファン・トゥッテ)とか,とにかく荒唐無稽なものが多い。今どきこんなストーリーでは映画はおろか,テレビドラマもできないだろう。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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