アンチエイジング・ゲノム!
(1)アンチエイジング・ゲノム!
アンチ・エイジング医学 Vol.15 No.4, 78-79, 2019
遺伝子解析の進化により,ヒト全ゲノムが解読され,さらに解析の高速化,費用の低減をもたらしています。この背景には,半導体を含むIT技術の想像を超える発展や,next generation sequencer(次世代シークエンサー)などの開発もあります。かつては1人当たりの解析費用は100億円(10⁹)しましたが,20年経った現在は10万円(10⁵)程度まで下がり,個人が自分の全遺伝子を知ることが可能になってきました。全ゲノム遺伝子解析(whole genome sequence:WGS)は,アミノ酸をコードする遺伝子領域のみならず,遺伝子調節領域や,ゲノム全体の約98%を占める,タンパク質に翻訳されない染色体領域の総称であるノンコーディング領域のDNA塩基配列を解析するものです。アミノ酸をコードする遺伝子領域の解析(whole exome sequence)からは,疾患の原因となる遺伝子異常,疾患リスク因子となる遺伝子多型,さらには代謝の個人的な違いを知ることができますが,WGSからは顔つき,体つき,声質といった個人を特徴づける身体因子,さらには個人の性格や,心理的な性向も判断しうることがわかってきました。縄文人のゲノム解析から縄文人の顔がわかってきたのも,頭蓋骨に遺伝子情報が加わったからです。
これまでの医学は,疾患の診断と治療を中心にしてきました。感染症の診断と治療は,我々の平均寿命を飛躍的に伸長しました。その結果,現代ではヒトに与えられた寿命より早死にする原因は,加齢に関係した慢性疾患(がん,血管疾患,炎症)であることがほとんどとなりました。これらの疾患の原因は生命活動によって生じる酸化や糖化などによる遺伝子の劣化(変異や欠失,修飾)ですが,疾患リスクには遺伝の影響が大きいことがわかってきました。我々が志す抗加齢医学はまさに,遺伝子のchronologicalな劣化をどのように予防していくかにあります。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。