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総説

DNA損傷応答と細胞老化,個体老化

城村由和中西真

アンチ・エイジング医学 Vol.14 No.5, 80-86, 2018

今から50年以上前に米国のヘイフリック博士は,ヒトの正常細胞を試験管のなかで培養すると,ある一定回数の分裂の後(分裂寿命)に増殖を停止し,その細胞は長期間にわたり生存することを見出した1)。この増殖を停止した細胞を,老化細胞と名付けた。老化細胞は,如何なる外的刺激に対しても反応せず,二度と増殖を再開しない。老化細胞に至るこの一定の分裂回数は,細胞の種類(線維芽細胞や血管内皮細胞など)により規定されるのではなく,細胞が得られた動物の種により規定される。興味深いことに,細胞の分裂回数は得られた動物の寿命と強い正の相関を示すため,細胞老化は個体の加齢性変化や寿命に重要な役割を果たしていると考えられる。最近になり,個体内における老化細胞の蓄積が,動脈硬化や2型糖尿病などの老年病2)-4)や,寿命そのものを制御する実験結果が示された5)。一方,細胞老化は分裂寿命のみならず,DNA損傷やがん遺伝子活性化,さらには酸化的ストレスなどによっても誘導されることが明らかとなった。このように,老化細胞はさまざまなゲノムストレスにより誘導され,恒久的増殖停止を特徴とするため,発がん防御機構の一端として機能することが示唆されはじめた。実際,個体内において老化細胞はがん組織にはほとんど存在せず,前がん病変において高頻度で同定される。ところが最近になり,老化細胞が分泌するさまざまな炎症性サイトカインや増殖因子が,周囲の組織に微小炎症を誘導することで,細胞非自律的に発がんを促進する可能性も提唱された。このように,細胞老化は個体老化や発がんに重要な役割を果たしていることが明らかとなり6)7),世界中の注目を集めている。本総説では,ごく最近の細胞老化誘導・維持機構,さらには発がんや個体老化における役割について紹介する。
「KEY WORDS」細胞老化,DNA損傷応答,p53,細胞周期,SASP

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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