Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)/中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)は,重度かつ広範の皮膚,粘膜剝離を呈し,時に死に至ることのある重症疾患である.SJS/TENの原因の多くは薬剤であり,皮膚科医の間では重症薬疹の代表として認識されている.SJS/TENの治療は国内では標準化されつつある1)が,死亡率は依然として約30%と高く2),この理由のひとつに早期診断の難しさがある.SJS/TENでは初期から水疱・びらんなどの典型像が確認できることは少なく,多くは紅斑から始まる.これは日常診療での遭遇頻度の高い播種状紅斑丘疹(maculopapular exanthema:MPE)や多形紅斑(erythema multiforme:EM)型薬疹などの多くの通常薬疹においても同様である.圧倒的に頻度の高いMPEやEMに紛れてまれに存在するSJS/TENを,発症初期の段階で見つけ出して診断することは専門医でも難しい.これまでにもSJS/TENの早期診断バイオマーカーとして,可溶性Fasリガンド3),グラニュライシン(granulysin)4)5),ガレクチン7(galectin-7)6),receptor-interacting protein kinase-3(RIP-3)7)など複数の候補蛋白が報告されているが,実用化に向けての研究段階であり,現在のところ汎用化までには至っていない.
この問題の新たなる解決手段として,近年高い画像認識性能で注目されているディープラーニングの応用を考えた.ディープラーニングは,近年の人工知能(artificial intelligence:AI)の顕著な能力向上を下支えする基盤技術のひとつである8).ディープラーニングで開発されたAIは画像識別において,ときに人間を凌駕する性能を発揮することで注目されている.われわれはディープラーニングを応用し,紅斑の個疹画像からSJS/TENと通常薬疹を判別する画像診断プログラムを作成した9).本稿では研究成果を紹介し,今後の展望について述べたい.