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Orthopractice―私の治療法 下肢手術の静脈血栓予防

DEBATE 3 エノキサパリン

高平尚伸

Arthritis―運動器疾患と炎症― Vol.10 No.3, 28-32, 2012

 エノキサパリン(クレキサン®)は,わが国で静脈血栓塞栓症(VTE)予防に使用が認可された唯一の低分子量ヘパリンである.欧米ではすでに広く使用されている.2012年に改訂された「第9版ACCPガイドライン」では,第8版から大きく改訂が加えられ,患者寄りのアプローチのコンセプトが示された.その結果,これまでの予防法の推奨グレードが昇降した.本稿では,このような背景のなか,推奨薬剤の1つであるエノキサパリンについて,適応を述べて,エノキサパリンを用いたVTE予防の実際,当院の成績を紹介し,長所や短所についても解説したい.

緒 言

 エノキサパリン(商品名:クレキサン®)は,わが国で静脈血栓塞栓症(VTE)予防に使用が認められている唯一の低分子量ヘパリン(LMWH)である1)2).LMWHは,従来の未分画ヘパリンの欠点をなくすように開発され,欧米ではすでにVTE予防目的として広く使用されており,「American College of Chest Physicians(ACCP)ガイドライン」でも推奨グレードは高い.
 2008年の「第8版ACCPガイドライン」では,人工股関節置換術(THA)と人工膝関節置換術(TKA)に対して,LMWHはフォンダパリヌクスや用量調節ワルファリンと並びGrade 1Aの推奨であり,これらの抗凝固療法のうち1つをルーチンに行うことを推奨した.また股関節骨折手術(HFS)に対しては,フォンダパリヌクス(Grade 1A),LMWH(Grade 1B),用量調節ワルファリン(Grade 1B),または低用量未分画ヘパリン(Grade 1B)のうち1つをルーチンに行うことを推奨すると勧告がなされた3).
 2012年に新たに改訂された「第9版ACCPガイドライン」では,2008年に発行された「第8版ACCPガイドライン」から大きく改訂が加えられ,表に示すような勧告が示された4)(表1a,b).

このガイドラインでは,利益相反の有無を重視し,利益相反の大きい研究者を最終決定者から外しており,新しくアスピリンなどの薬剤が推奨され,症候性VTEを重視する評価になったことがおもな改訂点である.すなわち,血栓症予防法と抗血栓療法に対する患者の考え方や価値観を考慮する患者寄りのアプローチ(Patient-important outcomes)のコンセプトが示された.さらに,患者リスクの層別化をより重視し,予防実施の前に個々の患者の深部静脈血栓症(DVT)・肺血栓塞栓症(PTE)リスクを考慮に入れた.
 本稿では,このような背景のなか,推奨薬剤の1つであるエノキサパリンについて適応を述べて,筆者が実際に使用している経験から,エノキサパリンを用いたVTE予防の実際,当院の成績を紹介し,長所や短所についても解説したい.

1 適応

 わが国の整形外科領域では,エノキサパリンはVTE予防として2006年にその効果が報告され5),2008年に承認され保険適応になった6).LMWHは,従来からダルテパリンナトリウム(商品名:フラグミン®)などが使用されているが,適応は「血液透析時の灌流血液の凝固防止」,「汎発性血管内血液凝固症(DIC)」であり,「VTEの発症抑制」を適応にもつLMWHは,わが国ではエノキサパリン(クレキサン®皮下注キット2000IU)のみである.この1シリンジ(0.2mL)2000IUにはエノキサパリンの20mgが含まれている7).
 適応は「下肢整形外科手術(THA,TKA,HFS)施行患者におけるVTEの発症抑制」である.また,VTEの発症リスクの高い腹部手術施行患者におけるVTEの発症抑制にも適応が追加されている.出血する可能性のある患者(表2),重篤な肝障害のある患者,軽度または中等度の腎障害のある患者,高齢者,低体重の患者などは慎重投与の対象である.

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