Summary
2006年からZenith,Excluder,Powerlinkが相次いで認可され,2011年にはTALENT AAAが認可された。本邦の腹部大動脈瘤手術はステントグラフトによる治療へと大きくシフトしてきており,現在,約4割がステントグラフトで治療されているのが現状である。
ステントグラフトは,機種ごとに構造が大きく異なっている。それぞれの特徴,長所,欠点をよく理解し,大動脈瘤ならびにアクセス血管の形状に適した機種で治療を行うことが肝要である。また,ステントグラフト手術には,これまでの人工血管置換術とは異なる特異な合併症(ピットフォール)があるので,それに対する対処法にも精通しておく必要がある。
Key words
●腹部大動脈瘤 ●ステントグラフト ●エンドリーク ●血管内治療 ●人工血管置換術
はじめに
腹部大動脈瘤ステントグラフト手術(endovascular aneurysm repair;EVAR)は,2006年にZenith,その後Excluder,Powerlinkが相次いで認可され,本邦でも広く行われるようになってきた。日本血管外科学会によると,2006年は人工血管置換術5524例に対してEVAR 166例であったが,2008年は5845対1857例であった。日本ステントグラフト実施基準管理委員会のEVAR登録数は,2008年は1968例であったが2009年は累計4463例,2010年は同8970例であった。年間4500余例実施されており,本邦の腹部大動脈瘤手術の4割がEVARで行われたことになる。
本稿では,EVAR施行において若手スタッフに指導しているこつとピットフォールを中心に述べる 1) 。
1 EVARの基本留置手技
EVARは,固定型血管造影装置が設置されたハイブリッド手術室での実施が理想であるが,鼠径部の小切開で実施できるので,必ずしも手術室で行う必要はない。血管造影室で行う欠点は,清潔度が劣る,麻酔の問題,緊急開腹術への移行の困難さなどである。筆者らは,腹部EVARは原則的に血管造影室で,硬膜外麻酔に局所麻酔を併用して行っている。
超音波検査で総大腿動脈の石灰化/粥腫の有無をチェックし,鼠径靭帯と大腿深動脈分岐部の位置を皮膚にマークしておく。皮膚は縦切開と斜切開があるが,筆者らは縦切開を好んで用いている。総大腿動脈の分枝は牽引して損傷,出血することがあるので,動脈閉塞性疾患合併を除いて結紮/切離しておいたほうがよい。シース径が18Fr以下の場合は5-0プロリン糸であらかじめ止血用Z縫合を掛けるが,20Fr以上の場合は追加縫合が必要なことが多いので,シース挿入時に横切開する。
ガイドワイヤ(guide wire;GW)は,ときに分枝に迷入するので,必ず透視下で挿入する。ヘパリンを3000単位静注(1時間ごとに1000単位追加)し,アクセス血管に狭窄がある場合は7mm径(18Frシース),または8mm径(20Frシース)4cm長のバルーンで拡張する。バルーン拡張する場合は,あらかじめstiffワイヤ(Amplaz Ultra-StiffまたはLunderquist Extra-Stiff)に交換しておいたほうがよい。
ラジフォーカス(0.035")に沿わせてBerensteinカテーテルを遠位弓部大動脈まで挿入し,stiffワイヤを挿入する。Stiffワイヤは,挿入前に先端floppy部をできるだけ湾曲させて遠位弓部でUターンし,弓部分枝に迷入しないようにする。体の小さい患者にZenithを用いるとトップキャップが弓部まで達することがあるので,stiffワイヤ先端を上行大動脈まで挿入して大動脈弁上でUターンさせる。Stiffワイヤを留置したらテーブル上のGWの端をマークして,以後の操作でずれないように注意する。ステントグラフト(stent graft;SG)挿入時は総大腿動脈を左拇指と左示指で挟み,右手でシースの近くをもってゆっくりと挿入する。シース外筒が挿入されたら,透視下で確認しながら腎動脈レベルまで挿入する。
2 Zenith AAAエンドバスキュラーグラフト
3ピース分岐モジュラー型で,ウーブンポリエステルグラフト外周に自己拡張型Zステントが縫着されている。固定フック(バーブ)の付いた腎動脈上ベアステントが特徴で,中枢ネックが短い症例に適している。サイズが豊富で正確な留置ができ,長期耐久性に優れている。2010年,Zenith Flexが登場し,ワイドネック(外径32mmまで),屈曲に対応し,親水性コーティングシースによるスムーズな挿入が可能となった。
欠点は,トップキャップが胸部大動脈上部まで上昇するので腎動脈より中枢に高度屈曲のある症例には不向きであり,shaggy aortaではExcluderより末梢塞栓の危険性が高いことである。また,遠隔期の脚閉塞が多い,留置手順がやや煩雑,ステンレススチールステントのため,術後MRI検査が行いづらい,シース径がやや太く,アクセス血管が細い症例でやや不利などがある。
総腸骨動脈が短く,同側脚が長すぎて留置できない危険性がある場合は,メインボディを1サイズ短くして,脚を1サイズ長くする。計測後に必ず図面上に動脈瘤を描いて,SGの留置具合をチェックする。メインボディの長さがメジャメントシート計測値上限に近い場合は,1サイズ短いほうが安全である。
メインボディのアクセス再度の選択は重要で,ZenithはExcluderに比べて強直であり,SGをべて強直であり,SGをスサイドは中枢ネックが向いている方向,つまり中枢ネックとアクセス血管がS(またはZ)型(ZenithのZと覚えるとよい)を形作る向きからアクセスする。Zenith Flexは柔軟性が増したが,アクセスの基本はS(Z)型である。これに対して,ExcluderはC型(中枢ネックとアクセス血管の向きが反対)となる。
中枢の4つのゴールドマーカーの2mm上までグラフトで被覆されているので,これを低いほうの腎動脈下縁に合わせる。先端ステント全体がベアだという認識で留置すると,腎動脈を閉鎖する危険性がある。メーカーの留置手順では,対側リム展開後,対側リムにカニュレーションするが,この操作中にSG自体が移動する危険性がある。そこで,先にトップステントを展開/固定したほうが安全である。Zenithは硬く,中枢ネックが変形していることがあるので,トップキャップを外す前にもう一度造影で腎動脈の位置を確認する。トップステント展開前であれば,数mm上下させることは可能である。なお,SG中枢端と腎動脈の位置関係をみるときは,腎動脈分岐の左右角度(通常,左前10~20度),中枢ネックの前後角度(頭側20度くらい)にX線管球を振って,腎動脈分岐部を中心に視差のない方向で拡大造影する。トップステント展開後は,SGがずれる心配はないので安心して手技を継続できる。
対側大腿動脈からカニュレーションし,カテ先が中枢ネック内で抵抗なく回転すること(スピンテスト)を確認した後,カテーテルを遠位弓部まで進め,stiffワイヤ,スケール付きカテーテルの順に交換する。シースの手押し造影で,チェックマークから対側腸骨動脈分岐部までの長さを計測する。このときも,X線管球を対側尾側に振って腸骨動脈分岐部が分離できるようにする。腸骨レッグは,SG末端とグレイポジショナー先端の間に隙間があれば,挿入前に透視下に隙間を詰めておく。また,ダイレーターとシース先端の間に隙間があると動脈壁を損傷するので注意する。対側レッグは,通常1~1.7ステント重ねて留置する。対側レッグ留置後,シースは血流で押されて抜けることがあるのでシース外筒をペアン鉗子か接着テープで固定しておく。次に,同側リムの残りを展開する。トップキャップを回収,抜去した後,X線管球を同様に対側尾側に振ってシースから造影し,メインボディ同側リム末端から同側腸骨動脈分岐部までの長さを計測する。同側レッグを留置し,バルーンで中枢および末梢ネック,接合部を拡張する。Stiffワイヤを軟らかいカテーテルに交換して,SGを自然の形状に復帰させた状態で最終造影を行う。中枢ネックが高度に屈曲した症例で腎動脈直下にSGを留置した場合,stiffワイヤを抜去した後,伸展されていた中枢ネックの屈曲が復帰してSGが上方移動して腎動脈を閉塞してしまうことがある。
タイプ1,3エンドリークがなければシースを抜去するが,このときに必ずGWを再挿入してGWを残した状態でシースを抜去する。アクセス血管に損傷があると,シース抜去後に血圧が低下する。GWが残っていれば,閉塞用バルーンやSG脚の挿入で対処できる。シース抜去後,循環動態に変動がないことを確認してからシース挿入口を縫合する。
Zenithには終末大動脈径の規定はないが,12mm径のレッグが2本入るスペースが必要である。終末大動脈径が18mm以下の場合,aorto-uniiliac型か他の機種選択を検討すべきである(図1)。
3 ゴア・Excluder
Excluderは,自己拡張型ナイチノールステントとe-PTFEで作製されている。Zenithに比べてしなやかで,動脈瘤の屈曲に追従しやすい。1セットはメインボディと対側レッグの2ピースで,中枢にベアステントはないが末梢移動防止用バーブが付いている。中枢端の3個のX線不透過マーカーが同じ高さになったとき,中枢ネックを垂直視することになる。メインボディの長さ4cm,対側リムのゲートまでの長さ3cmは共通で,分岐部外側に2つのマーカー(対側リムに長いマーカー,同側リムに短いマーカー)が付いている。Zenithは血管外径を計測するのに対して,Excluderは内径(血栓を含む)を計測する。中枢径は23,26,28.5mmの3サイズでレッグの重なりは3cmと決まっており,メインボディとレッグの長さは2cm刻みであるので,末梢を総腸骨動脈末端にぴたりと合わせるには短めのサイズを留置して,レッグエクステンションを追加するか,長めのものを押し込みながら留置する工夫
が必要である。
長所としては,しなやかで屈曲した中枢ネックでも追従すること,脚閉塞のリスクが小さいこと,細いアクセス血管にも対応可能なこと,腎動脈上の屈曲が問題とならないこと,末梢塞栓のリスクが少ないこと,留置手技が簡単なこと,術後MRI検査が可能なことなどである(図2A,B)。
欠点としては,中枢ネック径の対応範囲が小さいこと,中枢ネックに壁在血栓があると固定が不十分なこと,レッグ長を2cm間隔で調整しなくてはならないこと,メインボディが短く,対側リムのカニュレーションがやや困難なことなどである。
終末大動脈径が18mm以下だと,13~16mmのレッグ2本が径9mm以下に狭窄して留置されることになる(図1)。
Zenithより閉塞しにくいので実際には15mmくらいまで大丈夫であるが,同側レッグを展開する前に対側ゲートにカニュレーションし,kissing balloonでしっかりと後拡張して対応する。
メインボディは,C型カーブを描く向き(中枢ネックの向きと反対側)から挿入する。Excluderはしなやかなので,クロスレッグになっても脚閉塞の心配がない。常に,対側リムが開く位置を想定して留置する必要がある。ネック屈曲例では,意図的にクロスレッグにしたほうが対側リムのカニュレーションがしやすいこともある。メインボディは横方向より前後方向に屈曲しやすいので,中枢ネック高度屈曲例では屈曲しやすい向きに合わせる。
マーカー付きカテーテルによる術中計測から挿入SGの長さを決定するが,ぴったりの長さがないときは短めを選択する。対側尾側から同側腸骨動脈分岐部を撮影して,SG下端を同側総腸骨動脈末端に合わせる。次に,腎動脈分岐部を垂直視する方向(通常,頭側20度,左前10度前後。このとき,中枢の3個のマーカーが一直線になる)から造影し,下方腎動脈の下縁にSG上端を合わせる(通常,少し深く挿入することになる)。ここで,デプロイメント・ノブを一気に引いて全長を留置する。瘤が大きく屈曲している場合,Excluderは屈曲に追従するため下端が上方へ移動して留置される。末梢のシーリングが不十分な場合は,イリアック・エクステンダーを追加して十分なシーリングを得る。
これに対して,瘤の屈曲による下端の上方移動を見越して,SGを弛ませて留置する方法が二段階デプロイメントである。シースを対側ゲートが開く部位まで下げ,同側リムはシース内に止めておく。デプロイメント・ノブを40~50cm引くと対側ゲートまで展開されるので,ここまで一気にノブを引く。助手の掌を40~50cm離れたところに置いておき,これに当たるところまでノブを引くとよい。次いで,腸骨動脈分岐部を視野の中心にもってきて(管球を対側尾側に振る),シースを完全に下げる。素早くシース造影して腸骨動脈分岐部を確認後,同側リムの残りを展開する。二段階目は,血流によって自然に展開してしまうこともある。
デプロイメント・ノブをゆっくりと引き,血流に任せながら中枢端を腎動脈に合わせメインボディを中枢ネックと平行に留置する方法(スロー・デプロイメント)もあるが,血流でSGが下流に押し流される危険性がある。中枢ネックの屈曲が強い場合,stiffワイヤを抜いてfloppyな部分がネック部分にくるようにしたり,pull throughしたGWを介して左上腕動脈からのカテーテル先端でSG先端を押しつけたりして屈曲追従を試みる方法もある。
瘤が大きい場合や屈曲が高度の場合は,やや長めの対側レッグを選択し,重なり部分を先に展開してからシースを押し上げ,下端を総腸骨動脈末端に合わせるようにして二段階デプロイメントしてもよい。
Excluderはタイプ1エンドリークが多い。このため,中枢バルーン拡張を長めに30秒くらい行う。エンドリークが残存し,腎動脈との距離がある場合はアオルティック・エクステンダーを追加する 2)3) 。中枢へわずかに積み上げただけでもシーリング効果は大きい。これは,メインボディの中枢端は波状であるが,エクステンダーは直線状であること,ステントが二重になり拡張力が増すことなどによる。これでもエンドリークが残存する場合には,ELパルマッツ・ステントを留置する。Maxi-LDバルーンにパルマッツ・ステントをマウントする場合,メインボディ長が4cmと短いので,できるだけバルーンの下方にマウントし,留置の際もバルーンがレッグ内に位置しないように配慮する。
Excluderは2ピースで1セットであるが,エクステンションの使用が保険で認められている。初心者のうちは無理をせず,エクステンションによる継ぎ足し/積み上げを基本と考えて長さに迷った場合は短めを選択し,必要に応じてエクステンダーを追加するほうが安全である。
4 エンドロジックス・Powerlink
コバルトクロム合金の内骨格とe-PTFEグラフトからなるユニボディ分岐型タイプを特徴とする。長所として,慣れれば短時間で留置可能,終末大動脈径が狭い症例(径12mm以上)にも適応可能,ユニボディのためタイプ3エンドリークがない,内骨格のためタイプ2エンドリークが少ない,大動脈分岐部に騎乗して留置されるためSGの末梢移動がないことなどがある。短所としては,デバイスバリエーションが6種類と少なく,腎動脈から大動脈分岐部まで90mm,総腸骨動脈長40mm(実際は35mm)が必要であり,アクセスの外腸骨動脈屈曲が高度であると,デリバリーカテーテルの挿入/回収が困難なことがある。したがって,終末大動脈径が狭い症例で中枢ネックの屈曲が少なく,総腸骨動脈が長く,外腸骨動脈に狭窄/屈曲のない症例がよい適応である。アクセスの基本はS(Z)型である。
5 意図せず動脈を閉鎖した場合
1.腎動脈閉塞
腎動脈にカニュレーションし,ステントを留置する。カテーテルやガイディングシースを挿入できない場合は,上腕アプローチも検討する。バルーンをメインボディ内で拡張してSG全体を引きずり下ろしたり, GWをメインボディ分岐部でUターンさせて引っ張り下ろしたりする方法もあるが,解離,末梢塞栓の危険性がある。残存腎機能をみて,放置するのも一法である。
2.内腸骨動脈
同側シースの先端でSG下端を押し上げてみるが,多くは放置しても支障がない。
6 アクセス血管の損傷
最後にシースを抜去するときは,必ずGWを残したままシースを抜去する。シース挿入時に強い抵抗を感じたとき,シースに動脈片が付着して脱落してきたときは,血行動態に細心の注意を払いながらゆっくりシースを抜去する。抜去後に急激な血圧低下を認めたら,造影で血管損傷の有無を確認する。バルーンで損傷部の中枢を閉塞し,カバードステント(Excluderのレッグ)を留置する。損傷が大腿動脈まで続く場合は,人工血管による修復が必要となる。
文 献
1)大木隆生 編:腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際.東京,医学書院,2010
2)Ishibashi H, Ishiguchi T, Ohta T, et al:Intraoperative sac pressure measurement during endovascular abdominal aortic aneurysm repair. Cardiovasc Intervent Radiol 33:939-942, 2010
3)石橋宏之,太田 敬,杉本郁夫,他:腹部大動脈瘤ステントグラフト手術の初期・中期成績;術後瘤径変化の予測は可能か? 脈管学 50:651-655,2010
愛知医科大学血管外科教授
石橋 宏之 Hiroyuki Ishibashi
太田 敬 Takashi Ohta
愛知医科大学放射線科教授
石口 恒男 Tsuneo Ishiguchi