要約  精神障害と犯罪の関係は,精神医学あるいは司法の領域においても繰り返し論じられているテーマの1つである。本稿では,精神障害と犯罪に関する近年のデータを概観し,精神障害のなかでも特に統合失調症が関わる犯罪に焦点を当て,いくつかの視点からその実態と特徴について検討した。その結果,多くの研究では,統合失調症と暴力との間に何らかの関連があることを示している一方で,物質関連障害をはじめとする他の精神障害の併存が暴力により大きな影響を及ぼしている可能性が示唆された。また,暴力に至る背景には養育環境やパーソナリティ,神経生物学的特徴など多数の要因が複雑に関連していることから,少なくとも単一の診断名を暴力と結び付けることには慎重であるべきであると思われた。